168 帰り道の会話 ページ35
鉄塔広場の階段を下り、途中まで一緒に帰った。夕空は鮮やかな橙色から薄暗い青色までグラデーションに染まっている。階段で足を踏み外さないように慎重に進みながら、言葉を交わした。
「まだ顎は痛む？」
「正直、まだ痛いです。舌も思い切り噛みました」
「え!? 大丈夫？」
べ、と小さく舌を出した。剣城の正面に立ち、覗き込んで確かめると、確かに赤い痕がついている。
「痛そ〜。それも結構痛いでしょ」
「はい」
「さっき渡した水で傷口を洗い流すといいよ」
「そうします」
剣城が口を濯いだ後、お互いボロボロの姿でそれぞれの家に向かった。
「あの時、先輩が封印されなくて良かったです」
「フェイが助けてくれたから、封印されずに済んだんだ」
でも、円堂監督が代わりに封印されてしまった。いつか必ず助ける。
「ベータは先輩の過去に干渉できないと言っていましたが、あれはどういうことなんですか」
「うーん。私も不思議なんだよね。よくわかんないや」
「...俺に心当たりがあります。先輩は別の世界から来ましたよね。だから、過去に干渉できないんじゃないですか」
「あっ、たしかに！なるほど！そういうことかぁ！...あ、だからあの時共鳴現象が起きなかったのか」
異世界から来た私は、この世界にとって過去をもたない存在なのかもしれない。記憶と肉体のみをもつ存在ということだ。エルドラドのルートエージェントたちは未来と過去を行き来できるけど、異世界の歴史には干渉できないと考えるのが自然だろう。
天馬のように共鳴現象を受けるには、多くのパラレルワールドにそれぞれ自分がいる必要がある。11年前にタイムジャンプして戦ったあの試合で、化身アームドが成功しなかったり、力が高まらなかったのは、きっとその条件を満たしていなかったからだ。異世界から来た自分にはパラレルワールドがあまり存在しなかったのかもしれない。
「あれ？剣城、こっち方面じゃなかったっけ」
「兄さんの見舞いに行くので」
「そっか。お兄さんの様子、見に行きたいよね」
タイムジャンプした後は、歴史が少しでも変わっているかもしれない。それを確かめるためにも見舞いに行くのだろう。途中まで並んで歩き、途中で別れた。
「また明日」
「はい。お疲れ様です」
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作者名：充滞 | 作成日時：2024年2月22日 1時
