152 無気力な剣城 ページ19
「みなさん、大丈夫ですか？」
ワンダバの説明を受け、雷門中サッカー部のみんなは混乱している様子だった。そんな中、優一さんが口を開いた。
「タイムジャンプなんて驚いたろうけど、今聞いたようにこの俺は偽りの時間の中に生きている。天馬くんの知っている俺が、本当の俺だ。だから、本当の俺を取り戻して、京介にサッカーを返してやりたいんだ。そして、それは君たち雷門中サッカー部が本来のサッカー部になることを意味する」
「俺たちも偽りの時間の中にいるってことか...」
動揺が広がる。自分の生きている世界が偽りの世界だと言われて、それを受け止められる人はいないだろう。SF3級の茜ちゃんだけは理解しているようだけど。
優一さんは今、歩ける足をもっている。しかし、彼は"京介にサッカーを取り戻してやりたい"と言った。彼の決心は固い。今まできっと散々悩んで、悩み抜いて得た結論なのだろう。
「戦うんだね。歴史を元に戻すために」
「ああ。でも、その前に時間がほしい。アーティファクトを手に入れてくる。必要だろ？それにやっておきたいことがある」
「わかった。出発は明日だ」
優一さんは出口に向かって真っ直ぐ進んでいく。天馬と私はその後を追った。その時、腕を掴んで引き止められた。引き留めたのは拓人くんだった。
「A。今、何が起きているんだ」
「また帰ってから話すよ。今は行かせて」
「...わかった」
優一さんは深刻そうな顔で一直線にある場所へ向かった。商店街だ。裏路地に入り、ゲームセンターへと入っていく。
「ゲームセンター？」
「こんなところに剣城がいるのかな」
ゲームセンターの中には剣城がいた。彼は改造制服を着て、一人でゲームを遊んでいた。その姿を見て、私は言葉を溢した。
「前に見た剣城と違う」
「...そうだね。サッカーをしていた頃の京介とは違う」
「いえ。また別の剣城と出会ったことがあるんです。みんなからサッカーが奪われた世界で、剣城と話したことがあるんですけど、トゲのない感じでした」
「そうか、サッカーが失われた世界の京介か...」
思い耽るように優一さんはそう言った。そして、彼は弟のもとへ歩いた。一瞬ぴたりと足が止まり、こちらへ振り向いた。
「じゃあ、行ってくるよ」
その顔は強張っていた。彼ら兄弟は緊張し合う仲なんだろうか。でも、そのことについて気軽に触れられないような雰囲気だ。優一さんが話しかけると、いくつか言葉を交わした後、剣城はゲームセンターを出て行った。
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作者名：充滞 | 作成日時：2024年2月22日 1時
