第12話 ページ12
現地に着くと、着ぐるみらしきものを見つけた。確かに豪炎寺と霧野だ。だが、その周りには全然人がいない。だがよく見てみると、建物の柱からその着ぐるみを熱っぽく見つめているファンらしき人物がちらほら数人いる。そして私もその1人となった。
(ご、豪炎寺の着ぐるみ使い回しだ〜！！)
それは明らかに新調したものではなく、2014年くらいに見た無印世界編の豪炎寺の着ぐるみであった。近づいてよく見ると傷が所々に残っている。保管状況が悪かったのだろうか。近づきすぎたのか、私はいつの間にか着ぐるみ豪炎寺に認知されていた。そして、彼は手を上げて近づいてきた。
「えっ！？ど、どうしよう」
急な接近に動揺を隠しきれず、挙句の果てには辺りをきょろきょろ見渡して周りの人に助けを求めていた。だが誰も助けてはくれない。寧ろキラキラした目でただ観察されている。すると、豪炎寺は目の前で突如首元から服に腕を突っ込んだ。そして、彼はあるものを取り出し、私に見せた。それは豪炎寺のペンダントであった。
「それは、夕香ちゃんから貰ったという"誓いのペンダント"…！」
豪炎寺は頷く。彼はネックレスを外し、それを私に渡した。
「え…？これを私に？そんな大事なもの受け取れないよ」
着ぐるみ豪炎寺は首を横に振る。何が違うというのだろうか。着ぐるみ豪炎寺は私に視線を向けながらまた首元から服に腕を突っ込み、そして数十個のペンダントを取り出した。つまり、彼の首元には元から10ほどのペンダントが巻いてあり、配布する予定だったということだ。それを悟り、私はおずおずとそのペンダントを受け取った。豪炎寺はペンダントを渡し終えると背中を向け、すっとどこかへと去っていった。呆然と立ち尽くしていると、ある男性に声をかけられた。
「それ、豪炎寺のペンダントですよね。いいなあ...あ、急に話しかけちゃってすみません」
「あ、イナイレ好きな方なんですか？」
「あ、はい。そうです。さっきの一部始終見てました」
「見られていたんですね。豪炎寺から急にこのペンダントもらって、びっくりしてまして」
「説明もなく突然渡されたらびっくりしますよね。そういえばそれ、イナズマウォーカーのファンアートコンテストの賞品でしたっけ」
「あ、たしかに！」
「商品化されたものはこの部分に雷マークがなかったんですけど、コンテスト賞品のものだけは雷マークがあるんですよ」
この人、もしかしてかなり詳しい人なのかもしれない。
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作者名：充滞 | 作成日時：2022年11月16日 17時
