372. 自責の念とその救い ページ34
「…？」
「京介がお友達の家に泊めさせてもらってるって聞いて、管理人の方に挨拶をしに来たの」
「母さん。兄さんの手術のことは…」
「勿論知ってるわよ。仕事帰りに先生と話をしてきたから大丈夫」
剣城は安堵したように小さく一息を吐いた。しかし、その拳は強く握られている。
「…京介。そんなに自分を責める必要はないのよ」
「そんなことないよ」
「あの事故は偶然だったの。今回は手術ができるようになった。それでいいじゃない」
「…うん」
いつもは冷静で、大人びているように見える彼が、その時は”普通の中学生”だった。覇気のない声が彼から出ている。
きっとこの母親は、思い詰めた息子がフィフスセクターのシードとして非人道で過酷な特訓を受けていたということは知らないのだろう。ただ、「実力者の揃うサッカーの合宿に行っていた」と認識しているのだろう。私はやるせない気持ちになった。剣城が抱えているものを本当に理解しているのかと思ったりもした。しかし、私も剣城の全てを知っている訳ではないので、その思いが膨らむ前に圧し殺した。
「Aちゃん。天馬くん。これからも京介をよろしくね」
「勿論です」
「はい」
談話室の机には菓子折りと紅茶のカップ二つが置かれていた。その近くで秋さんが微笑ましくその様子を見ていた。
＿＿＿＿
その後も決勝戦に向けて、部活に参加しつつ時間の許す限りファイアトルネードTDの特訓を続けた。人数が増えてバランスが安定することで難易度が低くなったと言えど、最高難易度の技であることは変わりない。飛び抜けた才をもつ剣城や高い適応力を開花させた天馬をもってしても、その技を成功させることは困難であった。
私はとはいうと、地味にじんじんと痛む左足を気にしていた。しかし、そうも言っていられないのでなんとか技の完成にできるだけ近づけるように努力をした。時に太陽から応援のメールが来たりもした。
そして、試合前日の夜にようやく技は完成した。天馬はやった！と喜び、剣城は嬉しそうに小さく笑いつつ油断しないように緊張感を保ち、私は安堵からか脱力した。その夜は3人で満天の星空を眺めた。深い紺の中に赤い光が見えたので「飛行機かな」と呟くと、天馬は「あの飛行機からどんな景色が見えるんだろう」と笑顔で話した。その時、固い地面の冷たさが妙に心地よく感じた覚えがある。
試合当日は残酷な程あっという間に訪れた。
運命の決戦は幕を開ける。
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充滞(プロフ) - 倉木 勝さん» わー！！とても嬉しいです。思わず悶えてしまいました。最初は自己満足のためにこの小説を書き始めたのですが、予想以上に他の方にも楽しんでもらえているようで何よりです。また、イナGOが多くの人に愛されているのは最高に嬉しいです。更新楽しく頑張ります。 (2020年8月22日 22時) (
レス) id: 9a1665b462 (このIDを非表示/違反報告)
倉木 勝(プロフ) - 本当に大好きな作品です。通知が届く度に嬉しくて幸せな気持ちになれます。更新頑張ってください、楽しみにしています！ (2020年8月22日 22時) (レス) id: 5a008c300c (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 幸さん» コメントありがとうございます。とても励みになります。今後も楽しんで頂けるように作品作りを続けたいです。 (2020年8月22日 0時) (レス) id: 9a1665b462 (このIDを非表示/違反報告)
幸(プロフ) - いつも楽しくみてます。更新頑張ってください (2020年8月22日 0時) (レス) id: 0996b5f75f (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 夜月さん» ありがとうございます。イナクロ再履修が終わり、イナクロまでの構成が決まったらまた更新再開しようと思います。 (2020年8月7日 21時) (レス) id: ff878d9789 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：充滞 | 作成日時：2020年8月3日 10時
