72. 消滅 ページ36
「そ、んな」
私は彼が数分前までいた筈の空間をただ見つめていた。一つだけ椅子が不自然にこちらに向いていた。まだ彼が座っているような影を感じた。しかし、実際にはその場には誰もいなかった。
「ここに優一さんが？」
「うん…」
手遅れだったか。間に合わなかった。
消滅がこんなに早いとは。原作だとゆっくり消えていく描写だったから、間に合うと思っていたが。
「なにか書いてある」
机に目を向けたのはフェイだった。彼は一枚の紙ナプキンを手に持ち、それをじっと眺めていた。私は呆然とそこに立ち尽くしたまま、フェイの声を聞き逃していた。
「これを見て」
隣からフェイが私の肩に手を置いた。ハッとして彼を見て、視線を彼が差し出すものに向けた。それは一枚の紙ナプキンだった。白い紙の上には『みんなありがとう』とだけ書かれていた。インクが滲んでいる。細く、しかし美しい縦型の字だ。
この紙ナプキンは、先程までくしゃくしゃになってポテトチップスの紙袋の近くに置かれていたものだ。そして、書いたペンは近くにあったものだろう。
「っ、いち、さ…」
白い紙をピンと伸ばしながら握る両手が小さく震える。涙が一滴そこに落ちて、私は涙を流しているのだと自覚した。私の落とした一滴の水分がじわりじわりと紙の表面を侵食していき、やがてそれは文字に到達した。インクがゆっくりと滲んでいく。神聖なものが自分によって穢されてしまったような気持ちになり、そっとそれをフェイに返した。
「インタラプトが修正されることはなかったが、正しい時間の流れになった。彼は存在した歴史と共に消滅するんだ」
ワンダバはそう告げた。
私の脳裏ではその言葉に違和感を感じる。原作とは違う言葉だ。
原作ではどう言っていただろうか。
" 正しい時間の流れにインタラプトが修正された "、だったような。
それもそうか。修正はされなかったが、改変はされた。優一さんの手によって、正しい時間の流れに合流した。だが、これから向かう先は本当に正しい流れなのだろうか。京介はサッカーをしているのだろうか。優一は回復可能性があるのだろうか。
わからなかった。すべてがわからなかった。先の見えない不安に包まれていた。
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ルナストーン(プロフ) - …っ！？（何が言いたいか:最初から照れさせる気だったんですかぁっ！？） (2020年10月12日 0時) (
レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - ルナストーンさん» 読者の方を照れさせるつもりで書いたので良かったですー！ハハ (2020年10月12日 0時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ぁ…因みになんですが…消しても大丈夫です。僕は…。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» （［甘い戯れ］の後のやつの最後に向けてなのです）こちらも見ていて何故だか恥ずかしくなります。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 夜月さん» 見てみたいですね〜。いえいえ (2020年10月11日 22時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：充滞 | 作成日時：2020年10月10日 21時
