肆捌 瞳送り ページ1
「総悟さんのことが好きです」
「…そうかィ。俺は嫌われてると思ってやしたよ」
……届かない。
「違うんです。私の好きはそういうのじゃ…」
「……それはいけねェな。俺の調教に勘違いしてるだけでさァ」
本気で言っているのに。
それを察してくれない程、鈍感ではないはず。
「総悟さんは私に好かれたら嫌ですか?」
返事は返ってこない。
………肯定と取るべきなのだろう。
ごめんなさい。そう小さく呟いた。
……私、嫌われてるのかな。
__
返事をすることが出来なかった。
嫌とかじゃない。自分自身の問題なんだ。
……土方の野郎も同じ気持ちだったのだろうか。
あの日、借りっぱなしだったタオルを返すなんて口実付きであんなもんまで買って。
人に何か贈るなんて慣れなくて、そういえば最初にあいつにやった籠手。あれは駄目だったな。
異性に何かプレゼントなんてしたことなくて、結局何処にでもあるようなものを選んでしまった。
どうしてこんなに不器用なんだよ。
だから今度こそはと思い、店を何件も何件も回った。似合いもしない店に入るのはすごく勇気が必要だった。しかもそこの店員がすごいお喋りで…
『彼女さんにプレゼントですか?…あらまぁ素敵な目の色してるじゃない…あっそうだ!これなんてどうですか?海外の習慣なんですけどね…』
海外には、自分の瞳の色の宝石などを好きな相手にプレゼントする習慣があり、それを「瞳送り」と呼ぶらしい。
渡した相手と離れないようとの意味があるらしい。
…まぁ、それも何処かに落としてしまったようだが
好きと言われてすごく嬉しかった。
すぐにでも抱きしめてしまいたかった。その瞳が俺だけを写していればいい。そう思った。
だが、俺にはそうするだけの自信がねェんだ。それにお前を幸せに出来るような器じゃない。
部屋を出ようとするAの手を掴んだ。
「俺はお前が嫌いなんて一言も言ってねェからな」
分かりやすく顔が明るくなってやがる。
やっぱり、こっちの方が断然いい。
暗くなるより、明るい方がこいつには似合ってる。
「何それ」
「いやぁ。総悟さんへのお見舞い…的な?」
「じゃあなんでお前が食ってんだよ」
腐るからと返された。
しかも人が入院食を食べてる目の前だ。
紛れもなく嫌がらせだ。
二人でテレビを見た。何故か番組はあいつに決められた。テレビカード買ってあげたの誰だっけと脅迫を受けた。それも見舞いじゃねーのかよ…
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時