俺とこーた (ページ7)

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「ゆっくりしてって？」

「いやでも…」

「明日定休日だから、家も2階にあるから大丈夫だよ

仕事でお疲れでしょ、ほらゆっくりしていきな」

「ありがとうございます…」

女将さんの昔から変わらない気遣いに感謝して、

ふたりしてもうちょっと…もうちょっとなんて言いながらビールをおかわりして昔の会話に花を咲かせた

いつの間にか時間を見ると、すっかり夜も更けてきたところ

「うわぉ？！もうこんな時間…すみません、ありがとうございました」

「あのね、サインって…貰っていいもんなの？」

「書きますよ！全然！」

「久しぶりに会ったものだから…

すっかり有名になってね、昔からだけど…

初めてサインなんて貰ったよ…ごめんなさいね？プライベートなのに」

「いやいや、いっつもお世話になってましたから」

「昔はよくレッスン帰りに寄ってくれる子が居たんだけどねえ…

最近はレッスン場所が変わったみたいで…

だから昔の子が来てくれて嬉しかったよ」

「久しぶりに来れてよかったです」

長居させてもらって申し訳ないし、

女将さんと旦那さんには感謝しかない

でも久しぶりに薮とサシで飲んで、話して、ここに来れて、

何か自分の糧になるものが見出だせた気がする

……初心忘れるべからず

「ありがとうございました！またお越しくださいませ！」

「ありがとうございました！」

「…、じゃあここで」

「タクシー乗っけてよ」

「逆だろ」

「いいじゃん別に」

タクシーの人に薮が行き先を告げる

俺の家に先に行くのか

家の近所の喫茶店を捉えると、俺の家なんてすぐだった

「ありがとう、また」

「また」

手を振ってタクシーを見送る

…なんだか話し足りなくて、少し名残惜しい。

思い足を引き摺るように家に帰って、タクシーの代金を払っていないことに気づく

明日返そうと考え、貰ったマカロンを口に含んだ

「……あっま…うっま…」

薮がマカロンなんてイメージがないから、

今舞台で一緒になってる女優さんに聞いたのだろうか、

それとも自分で調べたのだろうか？

それとも最近世間のことにちょっと詳しい伊野ちゃんに聞いたのだろうか

そんな様子を想像しただけで笑いが込み上げる

それと同時に胸がズキッと痛んだ

小さな薮が俺の目の前から現れ、大声で叫ぶ

「みっしょんコンプリート！！！」

「うるさい、やめてくれ」