或る警察の話 ページ37
.
一悶着あった日の夜、俺はたまたま二人と遭遇した。
すっかり仲良くなって手なんか繋いで歩いていたっけか。
別にどうこう言うつもりは微塵も無かったがあまり夜遅くに出歩くんじゃあねぇぞとだけ忠告した。
懐かしいな。
あの日はちょうど今日みたいな満月だったな。
手を伸ばせば星を掴めそうな空の下、二人の眩しい笑顔が弾けていたのを未だに鮮明に思い出せる。
それくらい俺にとってよォ印象深い事だったんだぜ?
なのにナランチャ。
彼奴がこっちへ来た時俺は戦慄した。
口内がすっかり干からびて何をしていると掠れた声しか出なかった。
来たての時はあまりにも呆気ない死だった為かここをあの世と気付かず、それどころか俺を見て悲鳴を上げやがったな。
「幽霊のアバッキオがいるぞ!?どういう事だァ!?」ってな。
飛び出し掛けた拳を必死に我慢した俺を誰か褒めてくれ。
ともあれ理解した時彼奴は酷く悲痛な声で抗議した。
俺にはまだやる事があるんだ、守るって言った奴がいる、迎えに行かなきゃならねぇ女が居るってな。
けど死んだ事には変わりはねぇ。
地面に這いつくばりながら唸り声のように泣き叫んで悔しそうに何度も地面を叩いていた。
噛みちぎらんばかりに噛み締めた唇の隙間から何度も謝罪とお前の名前が呼ばれた。
俺は何も出来なかった。
そばに寄り添ってただ肩を叩く事しかな。
ブチャラティも後を追ってきた時ナランチャはこれまた叫んだ。
何でだって、嘘だろうってな。
そして不意に立ち上がり「俺Aに会いに行く」って言った時の衝撃がお前には分かるか?
行き方だってどれ程掛かるか全く検討がつかねぇ道を走り去っていた彼奴の背中はあの日見た満月を彷彿させた。
眩しい溢れ出さんばかりの光を湛えた月をな。
俺とブチャラティは大人しく見送る事にした。
...なのに彼奴って奴はよぉ、次に帰ってくるのが80年後になるなんて一体誰が想像していたってんだ!
所で彼奴は今どこだ?何でお前と俺たちしか居ねぇ。
あ?御使いだァ?
じゃあ戻って来たら一番に改めて言ってやれよ。
待っててくれて、迎えに来てくれてありがとうってな!
誰よりも愛してるって言ってやれ。
そうしたら彼奴はまた太陽の様な、オレンジの様な、あの眩しい光を抱えた月の様に笑顔になるに違いねぇからよ。
114人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱ - ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
青 - 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時