或る男の話☆5 ページ31
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「今は少し離れた所にいるだけ。
またいつかは会えるんだからその時までめいいっぱい生きて、そしてスゲェ頑張ったな!って褒めてもらえるように死に絶えたい」
「...そうですね
僕も皆の為にも精一杯生きていかなくては」
トントンと胸を叩いてAが笑う。
「この心臓に彼がいるんだよ。
私の全身めがけて精一杯脈を打ってくれているの。
だから私は生きる。
ナランチャが迎えに来るその日まで」
息が詰まった。胸ぎゅっと締め付けられる。
思わず嗚咽が零れ涙は重力に従い滑り落ちた。
その後Aを心配した両親が有給を取り暫く日本へ帰った。
皆に俺が死んだ事を伝えたら自分の事のように悲しんでくれた人達。
きっとこいつらがAの言っていた幼馴染み達だろう。
ありがとう、もう大丈夫だと伝え精一杯の笑顔でまたイタリアへ帰った。
毎週土曜日は俺と午前を共に過ごしていた行きつけのカフェでエスプレッソを飲み、墓参りに行った。
お祈りの言葉に俺はいつも耳を傾け一言一句聞き漏らさなかった。
俺との時を切り取った写真は忘れぬ様にと全て部屋のコルクボードに貼り付けた。
そして学校を卒業し親の反対を押し切って音大も無事卒業した。
作詞作曲を手掛け数多くのミュージシャンを見送った。
お見合いは全て断り親から逃げ出した。
三十半ばでAは養子をとった。
毎夜祈りを捧げていた。
何を願っているから大方想像がつくけどな。
Aが眠ったり学校へ行っている間時々パッショーネの方へ出向き、そして天寿を全うした奴らからお疲れ様だぜ!って肩を叩いた。
死んだ俺には勿体ないくらい素晴らしい世界だった。
この理不尽で酸化しきったこの世界だからこそ見てきてよかった。
ああ、雨が上がったな。
話を聞いてくれてありがとうな。
そろそろ約束の時間だから行くぜ。
月光が眩しい。
嗚呼
約束の時間だ。
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ぱ - ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
青 - 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時