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☆20 ページ21

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星月夜を眺めて私は何度目かの現実逃避をする。


あれからどれくらい経ったんだろう。



ナランチャのお墓を見た時ああもう本当に居なくなってしまったと胸に鉛玉が居座るようになった。

土の中で眠る貴方に私はもう何も伝える事が出来ないのだと改めて思い知らされた。


貴方の存在はいつの間にかここまで大きくなっていた



眠れない夜が続く。
頬に滑る指の感覚ももう思い出せない。



ぱったり出かけなくなった私を見て母は何も言わなかったが何となく察していた。

安心していた


恋人のギャングが死んで、私が自由の身になった事を


喜んでいた。



何だか今日は眠れそうだ。
ソファに横になって瞳を瞑る。

意識を失う直前誰かが呼ぶ声が聞こえた気がした。



.
.




海の上で月光が踊っている。

周りは墓石が並んでいてどれも苔むし、花が咲き乱れていた。

此処は何処だろうと周りを見ながら歩く。


ふわふわの苔が裸足の足を優しく包む。
ツバメが一匹空を駆けていくのが見えた。


そのツバメを目で追っていた私は留まった人物を見て戦慄が走った。


一目散に走った。


蔓に絡まり茨が足裏に刺さったっていい。
なんで、どうしてと喉の奥が震える。




「ナランチャっ!!」




振り返った彼は間違いなく彼だった。
その胸に飛び込んで震える息を整える。

鼻先をかすめる香りは太陽と柑橘系、そして微かな汗の匂い。



「A!」



「ナランチャ...っ!会いたかった!」



「...俺も」



会いたかった



これは何のいたずらだろう。
遂に私が幻覚を作り出してしまったのだろうか。


だとしたら何ともまぁ完成度が高いったらありゃしない。



「私を置いていくの?
ひどいよ、これから色々やろうって言ったじゃん。

まだ食べてないジェラートだってあるよ。
聞いてないCDだってある。

ひどいよ、ひどい...ナランチャの馬鹿...一人にしないで...っ!

私も連れて行って!」



「悪いけど出来ねぇ。
お前はまだ生きている、そうだろ?」



「そんな...っ」



「...あーもう、しょーがねぇなぁ!」



わしゃわしゃと掻き乱される髪に視界が遮られた。
髪越しにキスがひとつ額に落ちる。


涙が溢れ出て止まらなかった。



「此処で待っててやるよ。いや、むしろ迎えにいく。

だからお前は精一杯生きろ!正しく命火を燃やしてくれ



そしたらその日の夜、星月夜の下お前を迎えに行ってやる」




だからその時まで、と彼は私の好きな低い声で囁いた。

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- ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
- 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時

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