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☆19 ページ20

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「ナランチャから貴方の話は聞いていました。

いつも楽しげで、幸せそうにその時だけは彼の表情は穏やかでした」



「ナランチャは...、いつ、どこで?」



「約一ヶ月前、ローマのコロッセオで」



一ヶ月前。



その時私は何をしていたっけ。
彼が頑張っているその時、私は。



「これ、返すぜ」



「これ...」



もう一人の彼から受け取った分厚い封筒を震える手で開ける。

中には隠れて撮ったであろう私の写真があった。


ジェラートを食べている私。
眠っている私。
パスタを作っている私...



思わず手で口を覆った。



付着した酸化しきった血液を指でなぞる。

喘ぐような嗚咽が口から溢れ出た。



「彼はいつも写真を眺め話していました。


どれだけ貴方を愛していたか、どれだけ貴方に会いたいか、恋い焦がれているか」



「...っ!」



ナランチャ。

愚かな私を許して欲しい。

未来の前に立ち竦む足が踏み出せない私を、CDショップに寄ってしまった私を、最後に貴方の温もりを知ってしまった私を


どうか、許して欲しい。



もう一度だけ貴方に会いたい。


会って言いたい。
誰よりも愛していると。


けどもうナランチャは居ない。
もう会えない。


どれだけ探しさ迷っても柑橘系の香りを纏った貴方は居ない。


隣で笑うナランチャ。
いつも寄り添ってくれたナランチャ。
ふとした時に年上らしさを見せてくれたナランチャ。


もう一度と願ってもそれは永遠に叶わない


名前を呼んでほしい。抱きしめて欲しい。

愛を囁いて私にキスをしてほしい。


今すぐに震えが止まらないこの体を抱きしめて欲しい。



「ありがとう、ございます。
二人だって、お辛いのにわざわざ...、本当にありがとうございます...っ!!」



「彼の遺体は故郷であるこの街に埋葬しました。
場所は彼の行きつけのカフェの横の坂道を真っ直ぐ登った所です」



二人が去ったあと私は暫く動けずにいた。
もうすぐで春が終わる。

共に祝おうって言っていたナランチャの誕生日が来る。

両手で顔を覆う。
嗚咽が溢れ出す。

写真を胸に抱え崩れ落ちた。



あのねナランチャ。



私ね、貴方に言ってなかった事があるの。



貴方の隣に立てて嬉しかったよ。
いつも隣で支えてくれてありがとう。



誰よりも愛していた。誰よりも大好きだった。



こんな思いをするくらいなら私はあの日出会わなかった方が良かったかもしれない。



会いに行きたい。




私のエゴを許して欲しい。

☆20→←☆18



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- ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
- 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時

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