Prolog ページ1
.
大粒の雫が窓を激しく打ち付ける。
記録的豪雨の夜に包まれたこの部屋は死の匂いが差し迫っていた。
申し訳程度のランタンに照らされた祖母の顔は蝋燭のように真っ白で、落窪んだ瞳には微かな眼光のみを湛えていた。
早く停電が治って欲しい。こんな真っ暗闇の中祖母を死なせるわけには行かない。
そう言って母はありったけの懐中電灯を掻き集めに部屋をあとにした。
そんな思いも虚しく雨風は幽霊のような唸り声をあげ激しく窓ガラスをノックし続けている。
「...って、......ほしい...」
「何?なんて言ったの?もう一度言っておばあちゃん」
しわしわの血管が浮き出た手を握る。
体温がゾッとするくらい冷たく感じた。
「そこの、引き出し...三段目に、手紙が入ってる...から、出して欲しい」
「手紙?」
言われた通り引き出しを開ける。
そこには黄ばんで擦り切れインクが滲んだ古い手紙があった。
「ノート、も...」
言われた通りノートも出す。
こちらもすっかり古びていた。
祖母へ差し出せば懐かしそうに震える手で手紙を開ける。
すっと文字を撫でる指がほんの一瞬シワひとつないスラリとした若々しい指に見えた気がした。
のぞき込んでみればまあ...これは...と絶句してしまうくらい汚ったない字。
誰だこんな字を書いたのは。何故祖母はこれを見たがった。
ノートも見てみれば小学生がやるような計算式ばかり。
しかし祖母は相変わらず懐かしげに微笑んで見ていた。
「...これは何なの?」
「これは、私の愛した人の...最後の手紙」
愛した人。
思わず目を見開いた。
母は養子だった。
祖母は恋愛とかそういった類が嫌だったのだろうと勝手に思い込んでいただけに驚いた。
「...どんな人?」
「私が...ちょうどあなたの時位に出会った...オレンジの様な人」
そう言って祖母は掠れた声でポツリポツリと語り出した。
114人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱ - ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
青 - 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時