三十頁 ページ32
・
喉に粘土を押し込まれたかのようだった。
声が上手く出ない。何か言おうとすればﾋｭｯと空気が空回りする。
今私はこの人に伝えたい事何て一杯有るのに...上手に言葉を紡ぐ事が出来ない。
強いて言えば心にあった氷の殻が音を立てて崩れ落ちたような気がした。
「さぁ、帰ろうか」
クスリと微笑み彼は私に手を差し伸べた。
私の掌をその手にそっと重ねる。
冷たい手。
しかし何処か暖かいそれは優しく私の手を包んでくれた。
「太宰さん」
今私の中には伝えたい事しかない。
なのに声が上手く出ない。
けど、一言だけは言えるかな。
「有り難うございます」
すると太宰さんは少し驚いた様な表情を浮かべた。けど、またふわっと微笑み。
「どう致しまして」
二人で手を繋いだまま店を出た。
・
・
「...」
探偵社で資料を捲っていく。
それをボーッと見つめながら私は考えた。
『...帰り、たくない......』
『わっ...私はｯ!!...ｳｯ...何でっ、生きて、い、るのかっ分からない...っ
必要とされ無いくらいならば...っ』
＿＿＿＿『死んでしまいたい』
ハァと溜息が溢れる。
私に彼女の魂は救えたのだろうか？
彼女の涙を思い出す度に心が痛む。
(どうしたものか)
机に突っ伏し目を閉じる。
今迄に何人もこの世界に迷い込んで来た。
その度に私に出来る限りの事はした。
けど...
痛む胸をそっと抑える。
(こんな感情は生まれて初めてだ)
ぎゅうっと胸が締め付けられるようなこの感覚。
思い出す度に苦しくて息ができない。
気が付いたら目で追っている。
(これは重症だね)
苦笑いが溢れた。
既にこの感情の正体は知っていた。
だからこそ辛いのだ。
彼女は元の世界に帰らなくてはならない。
そう思う度にまた苦しくなる。
(嫌だ)
まるで駄々っ子だと思いながらもその感情は止まらない。
(嫌だ...ｯ!!)
タイムリミットはあと二週間。
それまでにこの感情にけりを付けなければならない。
嗚呼...とても苦しい。
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羅尓 - 久しぶりに涙が出ました。 (2021年7月26日 12時) (
レス) id: 9b89cbfb6e (このIDを非表示/違反報告)
たまり - 私も名古屋です！(誰得)お話すごく好きです。応援してます！ (2018年7月25日 16時) (レス) id: 7ebfe7ebc4 (このIDを非表示/違反報告)
はねこ(プロフ) - キャラがはっきりしていてとても面白いです。シリアスなテンションの話なのに不思議とサクサク読めました。これからも頑張って下さい！ (2018年3月27日 22時) (レス) id: 4e46b846c9 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ - 名古屋の方なんですね！私も名古屋人なんですよ！←で？ 凄く面白いです！頑張ってください (2017年12月28日 13時) (レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
庵(プロフ) - 読んでいて凄くワクワクしました！凄く面白かったです、早く続きが見たくて仕方ないです。更新楽しみにしてます(*'v'*) (2017年10月11日 12時) (レス) id: 80af1d3c01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鈴鶴＠メガネ＝本体
| 作成日時：2016年7月26日 22時
