今だけ、君を思ってもいいですか？【妹尾 匡】

+forty ページ48

ギギギと大きな古城並みの鉄の分厚い扉を開ける





すると広いレッスンルームが広がっていて






中央のかべ際に5人の試験官が大きめのデスクにいっぱいの資料を広げて演技を見定めるために目を光らせている






楓君と私は待機場所の椅子に腰掛けると、前のペアの演技が丁度始まった






台本はもちろん全員同じ物なので、セリフも動きも同じはずなのだが、まったく違う雰囲気に仕上がっていて






へえ、すごいな。素直に感心した






あ、試験官のうち2人はテレビで見たことある俳優さんと女優さんだ初めて見た







のんきな事を思った






私の中に居座っていた緊張君はどこかへ旅に出たらしい






すると、膝の上に置いていた手をぎゅうっと握られる





楓君？？





驚いてバッと楓君の方を見ると、楓君はいたずらっぽそうな笑みを浮かべてこちらに笑いかけていた






頑張りましょう





とその笑みは伝えているようで





もちろん





そう言うつもりで私も楓君に笑いかけた





「156番、奥村楓さん音華Aさんどうぞ」






先生の呼び声に、私達は声をそろえた







「「はいっ」」







さあ、頑張ろう








緊張はしているかもしれないけれど、今までの練習の成果を見せられるのもこれの一回きり






楽しんでやらなきゃ損だよね






そう思えてきて、なんだかワクワクした






よろしくお願いしますって元気に2人で挨拶して、楓君と向き合って






セリフが始まった途端にもう楓君は好きな人にしか見えなくなって、夢中で演技をした







匡君に好きって感情が溢れ出るのをそのまま演技に映し出すだけだ

+forty-one→←+thirty-nine

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す