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自分の事のように嬉しそうに笑う彼女はやっぱり可愛いなって、場に似合わず思った。なんで、俺の事やのに、そんな嬉しそうな顔するんよ。
「別に、門番はずっとずっとやっている訳じゃないよ。私も何代目かの門番だから」
「門番はね、ここに来た迷子が名前を忘れてしまうと交代になるの」
「私は、名前を忘れてしまったみたい」
悲しそうに笑った彼女の笑顔に胸を締め付けられた。こんなに胸が苦しいのは、自分の事のように苦しいのは。きっと俺が彼女の事を好きやからやろう。
俺は何も言えずにメアリーをみつめることしかできんかった
「…時間だね。さあ、チーノ起きる時間だよ」
「俺が、俺が何とかしたるから。メアリーを目覚めさせたる」
「…無理だよ。ここでの事は全部忘れちゃうからね。」
ズボンを握りしめる。手を離すとシワになることも無く元に戻るそれを見て、まるでメアリーと俺の関係みたいやと思った。ここでの事はホンマになんにも記憶に残らんって言われてるみたいで。
「絶対忘れへん、メアリーの事忘れへんから!」
「チーノは優しいのね」
あかん、自分でもわかる。意識が浮上していく感覚。本当にもう時間切れなんや、帰りたくない訳やない。ただメアリーと、もっと一緒に居たいって思う。いつからこんなこと思うようになってしもたんや。
いや、いつからなんて、もうとっくに気づいとる。初めてメアリーの笑顔を見た日、この子には笑ってて欲しいと思った。
「メアリーが……メアリーが好きやから!だから、忘れたくないねん!」
彼女は驚き、辛そうな顔をして下を向いたけど、次に俺の方を向いた時にはいつもの笑顔やった。
なんやねんそれ、なんか言うてや。おれ、初めての告白やってんで。
次第に世界が歪んでいく。
「もしも、もしも次会えたなら、流星群を捕まえようね」
「また夢の中で」
俺の意識は途絶えた。
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作者名:ねこ | 作成日時:2021年5月4日 0時