転機 ページ10
それから、夜星を見上げながら黒死牟さんと雑談する日々が始まった。
一人で星をぼんやりと見上げるのもそれはそれでいいが、やはり話し相手がいたほうが何かと楽しい。
黒死牟さんはよく昔の話をしてくれる。
昔と言っても、弟さんとの暗い話題ではなく、他の鬼や古い文化などの話だ。
私が知らないことだらけで、彼と話せる仲になって本当に良かったと思う。
このようなことを、別れ際に私は言い方を変えながら毎回黒死牟さんに伝えている。
そうすると黒死牟さんは、少し照れたような表情になるのだ。
こんな優しい顔ができる彼が、どうしてあんなに悲しまなければ、辛い思いをしなければならなかったのだろう。常々不思議に思う。
転機があったのは、黒死牟さんと出会ってから数週間が経過したある日のことだった。
その日私は仕事を終え、片付けをしていた。
隣には千花。片付けを手伝うと言って聞かなかったのだ。そんな千花に対し”両親に褒められるためなのだろうか”と考えてしまう自分が腹立たしい。
千花「姉ちゃん、こっち終わったよ」
A『ん。こっちももう終わる』
千花「そっか!今日も一日お疲れ様。いつもありがとね」
突然改まったように言う千花。一体どうしたのだろう?
A『何急に』
千花「急じゃないよ。常々姉ちゃんには感謝してる」
そんなふうに言われたりしたら、どんな態度を取ればいいか分からないではないか。
私は返事をせずに裁縫道具を高い棚の上に置いた。これで片付け完了だ。
A『ほら、さっさと寝るよ。夜も遅い』
千花「そうだね、寝よ!」
千花が部屋を出ようとする私を追おうと棚に背中を向けた、その時だった。
千花「わっ・・・!」
A『何!?』
ぐらりと揺れる地面、踊るように細かく跳ねる棚の上の裁縫道具。
地震だ。
ふと千花の頭上を見ると、何かが落ちてくるのが見えた。
A『あれは・・・!』
私がさっき置いた裁縫道具。
中には大きな裁ちばさみが入っている。当たったりしたら大怪我だ。
私は咄嗟に千花を突き飛ばし、庇った。
千花が怪我をしたら私が怒られるからじゃない。完全に自分の意思だった。
私に押された千花は腕を強く床に打ち付けた。
千花「痛っ」
その口から小さく声が漏れる。
次の瞬間、
顔を庇った私の腕を鋏が掠った。
ちょっと擦っただけなのに、腕が熱い。何かが垂れている。
ああ、
痛い。
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たまき@元夕和(プロフ) - こだぬきさん» そうなんですね!なんだか堕姫ちゃんらしい・・・ (2022年12月29日 16時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
こだぬき(プロフ) - たまき@元夕和さん» 一度匂い試してみた事あったんですけど、可愛い様な色っぽい様なそんな感じの匂いでしたよ。 (2022年12月28日 21時) (レス) id: df107beb4b (このIDを非表示/違反報告)
たまき@元夕和(プロフ) - こだぬきさん» はじめまして!いつもありがとうございます。そうですね、人間時代はできませんでしたからね・・・。めっちゃわかりますそれ!! (2022年12月28日 19時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
たまき@元夕和(プロフ) - 零さん» わかりました、ありがとうございます! (2022年12月28日 19時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
こだぬき(プロフ) - はじめまして!いつも楽しく読ませて頂いてます!私個人としては千花ちゃんも鬼になって姉妹仲良く暮らして欲しいなと思ってます。後堕姫ちゃんといえばイメージ香水あるんですよ〜。 (2022年12月28日 19時) (レス) id: df107beb4b (このIDを非表示/違反報告)
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