月の下 ページ33
〚夢主Sode〛
ことは数十分前に遡る。
鬼になってから二週間。私は十人程人を喰った。
自分ではよくわからないが、私はかなり成長が早いらしい。黒死牟さんだけでなく、堕姫さんや童磨さんもそう言っていた。
上弦の方々の中でも、特にこの二人には気に入ってもらえたようだ。どちらも黒死牟さんとは違い外見で判断されただけだが・・・それでも十分嬉しかった。
鬼は強くなると、「異能」というものを持つようになるらしい。
「血鬼術」と呼ばれるその能力は鬼しか持っていない特殊なものらしく、位を持った鬼たちは皆その能力をも持っているそうだ。
初めての狩りのとき、黒死牟さんの血鬼術を見せていただいたことがある。
武将だった人間時代の身体能力を活かし、腰の刀で「月」を象った攻撃を繰り出す様は、静かでかつ勇ましく、本当に美しかった。
まだ私に血鬼術は使えないが、もう少し経てばじきに使えるようになると堕姫さんが言ってくれた。
そういう堕姫さんの血鬼術は帯をもとにしているらしい。堕姫さんのことだからしなやかで優美なのだろう。いつか見てみたいと思った。
黒死牟さんが声をかけてきたのは、そうやって鬼の知識がいくらかついてきたある日のことだった。
黒死牟「随分と・・・表情がよくなったな・・・」
A『黒死牟さん!』
人を一人喰って、満足して屋根で星を見ていた私のところにやってきた黒死牟さんから、微かに血の匂いがした。
彼も、誰か喰ってきたのだろう。
A『お陰様で毎日楽しいです。本当にありがとうございます!』
お礼を言うと、黒死牟さんはわずかに目を細めた。
黒死牟「鬼になって尚・・・それ程清々しい表情をする者は・・・なかなかいないな・・・」
A『ふふ、そうかもしれませんね』
会話が途切れた。
黒死牟さんの頭上で満月が光っている。月に照らされた黒死牟さんは、どこか神々しかった。
黒死牟「・・・妹には・・・会いに行かないのか・・・」
ふと黒死牟さんが口にした。
A『千花に、ですか』
確かに、そろそろ会いたいとは思っていた。でも、無惨様に許されたとはいえやはり気が引けたのだ。
黒死牟「あの方も・・・許してくださった・・・今更気にすることも・・・ないだろう・・・」
A『そうなんですけど・・・でも、やっぱり気にしちゃうんです』
情けないですね、姉なのに。
自嘲気味な笑みを浮かべる私を、黒死牟さんは見つめた。
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たまき@元夕和(プロフ) - こだぬきさん» そうなんですね!なんだか堕姫ちゃんらしい・・・ (2022年12月29日 16時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
こだぬき(プロフ) - たまき@元夕和さん» 一度匂い試してみた事あったんですけど、可愛い様な色っぽい様なそんな感じの匂いでしたよ。 (2022年12月28日 21時) (レス) id: df107beb4b (このIDを非表示/違反報告)
たまき@元夕和(プロフ) - こだぬきさん» はじめまして!いつもありがとうございます。そうですね、人間時代はできませんでしたからね・・・。めっちゃわかりますそれ!! (2022年12月28日 19時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
たまき@元夕和(プロフ) - 零さん» わかりました、ありがとうございます! (2022年12月28日 19時) (レス) id: d0ef2aa258 (このIDを非表示/違反報告)
こだぬき(プロフ) - はじめまして!いつも楽しく読ませて頂いてます!私個人としては千花ちゃんも鬼になって姉妹仲良く暮らして欲しいなと思ってます。後堕姫ちゃんといえばイメージ香水あるんですよ〜。 (2022年12月28日 19時) (レス) id: df107beb4b (このIDを非表示/違反報告)
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