第四夜 『クローバー』 ページ27
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グレーだな、と思った。
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「…これ、君の?」
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酷く綺麗な、ビー玉のような茶色く透き通っているその瞳の奥が
酷く濁っているグレーの瞳に見えた。
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「…すみません、私のです」
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風のせいで前髪がぶわ、とあがって思わず目を瞑る。数秒経って目を開けて、
クロックスでそちらの方へと向かう。
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二人を隔てる壁。
その向こうに手を伸ばそうとすれば、ひょいと引っ込められる手。
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「クローバー?」
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左手に缶ビールを持っている、少しお酒臭い顔をしてるその人が興味津々に右手に持っている私のそれを覗いて
くふ、と可愛らしい顔で戯ける。
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「三つ葉のクローバーの花言葉、知ってる?」
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グレーだな、と思った。
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「復讐」
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くく、と喉を鳴らして笑ったその人は「怖いでしょ」と言って
隔てている壁の向こう側から手を伸ばしてきた。
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私はその伸ばされた手を掴んで、風で飛ばされたそれを受け取る。
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「あの…寒くないですか?風邪ひきません?」
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ひゅっ、と喉を切る風は今年の異常気象と言われるほどの猛暑がまるで嘘のように思えるほど冷たい。
秋風か。
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「大人になるにつれ風邪の抗体は出来るでしょ。そんな簡単に風邪になんないよ、大人は」
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ふ、と今度は鼻で嘲笑うように。
ビールは残り少なかったのか、グイッと一気にその人はアルコールを飲み干した。
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「人のこと言える?」
「え?」
「あなただって、こんな寒いのに外に出てるじゃない」
「……」
「そういうこと」
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「おやすみね」
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じゃあね、とそれだけ残して私の視野から消える。
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「……へんなひと」
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ぎゅ、と風で飛ばされてしまった
三つ葉のクローバーを押し花にした、しおりを両手で握って夜空を見上げる。
生憎ここは都会。あまりお世辞にも綺麗だと言える星空は見えない。
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「…寝よ」
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肌寒い風に鳥肌を立たせて、ガラガラとベランダの扉を開けて
無意味な賑やかすぎるテレビの音で溢れてる、自分の部屋に戻った。
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