【05】 ページ22
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智『…、そっか。ごめん、具合悪い時に。ごめん。帰る、今日』
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恥ずかしかった。
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チヨ『ありゃ、もう帰るのかい？…っておーい！』
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チヨさんの声さえも無視するぐらい、全身の熱が上がっていた。
彼女の熱にあてられたのかもしれない。
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恥ずかしかった。もしかしたらAちゃんも俺と同じ気持ちじゃねえか、なんて自惚れて。
結婚したらどうしよう、とか。そんなバカなこと考えて勝手に浮かれて。
恥ずかしい。恥ずかしい。
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智『……バカだなあ』
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必死に走って来たから、彼女用の片方の指輪を置いて来たことに電車に乗り込んでから気づいた。
その気づきをくれたのも、俺の指に光るお揃いの指輪を見てからだから、また憂いを帯びてしまう。
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もうあんな告白をしてしまったら、元には戻れない。
もう彼女には会えない。
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あの町には、もう行かない。
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ーーーー…そうやって、俺は最初からあの町はなかったことにして生きていた。
忙しくなく変わることない日々を過ごしながら、自分の中で彼女のことを飽和して
なんとなく付き合ったナツミがあまりにもいい子で、ようやく前を向けるぐらいの恋をすることができた。
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しっかり者のナツミ。逆プロポーズをされた時は思わず食べてたマグロをぽとん、と落とした。
「そろそろ大野ナツミにしてくんない？」
なんてイケメンな彼女を手に入れたんだろうと思ったぐらい。
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結婚。俺がもう三十路を迎えて、少し経った頃の出来事。
家を整理しようと、片付けをしていたらクローゼットの奥から出てきた安物のシルバーリング。
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『ーーーー…大野さん！』
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忘れかけていた、焦げる胸が少しだけ熱を吹き返した。
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Aちゃんに会いに行こう、と決めたのはその日の夜。
整理を手伝ってくれていたナツミに「傷心旅行だ」と言って。
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別にもう、どうにかなりたいわけじゃない。俺だってナツミっていう婚約者がいる。
ただ、一言。言いたいことがあった。
伝えそびれていたことがあった。俺はあの時逃げて、ずっとそのままだったから。
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彼女に、伝えたかったことがあった。
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