【APH】My Dear

それからそれから ページ34

「いつか消えしものならば､元から愛さぬままで良い｡だってそれが､私の選んだ道だから」
「…母さん?何歌ってるの?」
「作詞作曲お母さん｡彼女に贈る歌｡よ」

長い髪をたなびかせる娘に向かって笑う､妙齢の女性｡
かつて神の国と謳われた彼女に聖女とまで言わせた女性は､年老いてなおもその美しさを保っていた｡

「ああそうだ｡ウァティカヌスさんって人が来てるよ､母さん」
「…え」

こちらです｡と娘の後ろに居たのは若い女性｡
彼女こそが､神の国と謳われた国､バチカン市国なのである｡

「バチカン､様…」
「…えへっ｡久しぶり」

二人の間に流れる微妙な空気｡
居心地の悪くなった娘はそそくさと出ていった｡
2人きりになる室内｡
先に口を開いたのは､バチカンの方だった｡

「早かったわね」
「…ええ｡でもね､これでも持った方なの｡お医者様に持って1年｡早ければ3ヶ月って言われてたの…｡でも､5年…｡あの人､頑張ったのよ…っ」
「…そう｡教えてくれれば､良かったのに」
「だって､そんな事したら貴女仕事ほっぽりだして来ちゃうかもしれないでしょ?それに､言われたの｡貴女にだけは､教えるな､って」
「え」
「もう泣く顔は見たくない｡あの人に合うのは笑顔だって｡そりゃあもうかっこいい笑顔で笑ってくれたわよ!!だから教えなかった」

ごめんなさいね｡眉尻を下げて謝る女性に慌てたように手を振るバチカン｡窓際にある写真立てに目が行き､手に取った｡
そこにいるのは白銀の髪を持つ男性｡

「ギル君の､最後の言葉ね…｡Aさん､笑ってっかな｡だったの」
「…うん」
「ギル君と結婚したことに後悔は無いわ｡勿論今も｡きっと私は､あの人を愛していたいし､愛しているのよ」
「そう｡…良かった」
「Aさん､ｽｲｽにはどれ位いるつもり?」
「んー…葬儀が終わるまでかな｡最近体の調子が良くなくてねー」
「分かった｡無理はなさらないでくださいね」
「ふふっ…分かってるよ」

じゃあ｡と扉に手を掛けたバチカンは､思い出したかのように振り向いた｡
ん?と首を傾げる女性｡

「ねぇ､貴女は今､幸せ?」
「…うん」
「そっかぁ」

満足そうに微笑んだバチカンは､今度こそ部屋から出ていった｡

「あーあ｡短い生だこと」

それからそれからそれから→←それから

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す