111 Sho side ＊10/16 ページ40
Aの家を出て曲がり角を曲がったところで、はぁ、と一息ついた。
俺が背を向ける瞬間、Aの頬に一筋の涙が流れたのを見た。
胸が痛かった。
ぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られた。
でも、今の俺にはその資格はない。
そんなことしても、余計にAを苦しめるだけ。
『ちゃんと、伝わったかな…』
きっと伝わったよな。
Aがあんなに驚いてたってことは、二宮くんはAに何も言ってなかったんだろうし、そういう気配すら全く表に出してなかったんだろう。
自分の中に留めとくのは辛かったはずなのに。
“君が普通に告白しても、山本は相変わらずな反応しかしないと思う。だから選ばなきゃいけない状況にするんだよ”
その通りだったよ。
好きって言った時は言い返してきたのに、最後には苦しそうな表情を見せて、困惑していた。
Aと過ごした時間は俺よりはるかに短いのに、二宮くんはAのことをちゃんと分かってる。
でも二宮くんに負けたくないから。
最後のチャンスを無駄にはしたくないから。
二宮くんが提案したお祭りじゃなくて、嵐川の花火大会にした。
同じ日だったのは偶然なのかそうじゃないのか。
分からないけど、同じ日なら俺はこっちを選ばずにはいられなかった。
この花火大会はAとの思い出の中で特に記憶に残ってるものだったから。
まだ小学生だった俺らは、子供だけで行くのが許された場所は限られてて、ショッピングモールとか遊園地とか、人が多いところに行く時はいつも親が一緒だった。
けど、この花火大会だけは特別で。
待ちきれなくて俺んちまで迎えに来るAと一緒に、河川敷まで行って花火を見た。
最後に一緒に行ったのは中1の夏。
俺が引っ越す前。
行きははしゃいでたのに、花火見ながら急に泣き出してさ。
“なんでっ、なんでいなくなっちゃうの？”
俺の腕をポカポカ殴るAに、
“幼なじみなんだからいつでも会えるよ”
って俺は言った。
…会わないまま6年も経っちゃったよな。
今度こそ。
今度こそずっとお前のそばにいるから。
また一緒に花火が見たい。
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作者名：さくらこ | 作成日時：2016年9月19日 21時
