君の全部を僕に ページ13
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息もつけないほど驚く、とはこういうことか。
担当が変わったとは聞いていたが、まさか。上司と一緒に並んでこちらへ向かってくる彼に心臓が波打ち時が止まったようだった。
視線が交差すると彼もまた、俺に気付いたのか瞳が一瞬揺れた──ような気がする。
上司の紹介の後に続いて、
「初めまして、永瀬廉です。
新しく御社の担当となりました。
よろしくお願い致します。」
と名乗った。
知ってるよ、知らないわけがない。
嫌に耳に残る“はじめまして”。
「初めまして、平野紫耀です。」
彼が、そのつもりなら俺だって。
初対面であるかのように、よそよそしく名刺を交わす。
少しだけ触れた指先からじんわりと熱が広がる。
瞬間、これまでの記憶がぶわっと流れるように思い出された。
まだ幼かった彼が、声変わりをする前の彼が、
惹かれ合っていたと信じて疑わなかったあの日々が、
想いを伝えることが許されないと決めつけていた毎日が、
どこか儚く、いつか消えてしまいそうなそんな姿が、
走馬灯のように流れる。
2度と会えないと落胆し、もう一度会えるならと何度も願った彼が今、目の前に。
簡単なアイスブレイク、引き継ぎ資料の擦り合わせや今後の取引の予定など滞りなく話し合いが進む。
資料に目を通しページを捲るその指先が、少し項垂れるその横顔が気になって仕方がない。
一通り確認が終わり、彼の上司と俺の部下で何やら話している。その隙に。
「永瀬…くん、これからよろしくね」
またもう一度やり直せるなら、何も諦めなくていいのかもしれない。
fin?
終わり
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作者名：viawebdin | 作成日時：2023年7月26日 8時
