沈んで散って(しょうれん) ページ12
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ツアーに向けてのリハが終わって今日も残すところあと2時間。
「しょお…？」
「んー？」
「どこ行くん？」
誰もいない夜道、まだまだ昼の熱をもったままの気温、でも少しだけ風が吹いて段々と秋が近づいている。
「ちょ、しょおっ…」
「いいじゃん！誰も見てないよ」
夜の不思議な空気に飲まれて廉の手をとった俺は、遠回りするように家までの道から外れた。
目深く帽子を被ってサングラスをしていても昼間ならきっと、廉は許してくれない。でもいまは、その手を振り払うことなく廉の温もりが手からじんわりと広がっていく。
滅多にしない遠回りも、疲れ切った身体で暑さの中歩いて帰ることも、廉が隣にいるそれだけで価値のあるものになる。
遠くに見える星たちが、月が、2人だけの夜をもっと特別にしてくれる。
「れん、みて
月が綺麗だよ」
ふと横をみればこの状況を気にして俯く廉がいた。
こんな時間を共有できないなんて勿体無い。
顔を上げて、れん
ただ顔を上げてこの時間を2人だけのものとして共有したい
そう思って発した言葉は廉にとってはそうじゃなかったみたい。
「ごめんっ」
慌てて手を離す。
だって廉がさらに俯いてしまったから。
「しょ、う…意味わかってんの…？」
なんの…こと、？
「ううんっ…なんでも、ないで、」
・
紫耀はきっとわかってない。
月が綺麗ですね
に特別な意味があること。でもそれでいい。
勝手に恥ずかしがってるなんて知られたら、俺は恥ずかしくてもう一生2人でこうできないかもしれない。
「紫耀、
月、綺麗やね」
愛してるよ。
たまには寄り道も、こうして2人だけの帰り道もありやなぁ。
紫耀と2人、夜に沈む。
fin.
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作者名：viawebdin | 作成日時：2023年7月26日 8時
