短編集【実ｼ兄者】 (ページ16)

今日:13 hit、昨日:3 hit、合計:1,324 hit

記憶　sha ページ16

シャオロンさんのお話です
現パロド田舎想定

　誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。
　厳密に言えば誰かなんて曖昧なものではないけれど。もう二度と会うことはないと思っていたし、もう会いたくないとも思っていた。それなのに、なんで。
　頬が濡れているような気がして袖でごしごしと拭う。泣いたのだっていつぶりだろう。思い出したくもない。

　懐かしい夢を見た。
　そこにはAもいた。Aは変わらずシャオロンの名前を呼んで笑いかけていた。手を伸ばすとAは霞んで消えて、また、また。

　シャオロンは二度寝なんてする気にもなれなくて、いつもより随分と早い朝食の準備を始めた。
　影響されやすいとか、そんなんじゃないけど。ただ頭から離れないだけで。
　Aはパンが好きだったなとか、このテレビ番組が好きだったとか、この色が好きだったとか。大まかな部分から些細な部分まで次々と五感が感じ取って思い出される。

「……、いただきます」

　手をしっかりと合わせて恵みに感謝を告げる。パンを一口サイズに千切って口に放り込む。こんなに礼儀正しく食べる癖もなおらない。

　Aは2年前行方不明になった。軽い気持ちで行った心霊スポット、ただの肝試しだった。地元で有名なただ雰囲気があるだけの山。今までなんの問題もなかったのに、Aだけ行方不明になった。
　それからシャオロンは地元の歴史について目に穴が開くほど探し回った。本当に何もないことだけがわかった。霊的なもののせいにして自分を守りたかっただけだってこと、最初からわかってたのに。

　自分のせいでAはいなくなった。自分が誘わなければ今も隣にAはいた。Aじゃなくて、自分がいなくなればよかった。
　自己嫌悪にメリットなんて一切ない。ただの罪滅ぼしで、自己満足だ。こんなことをAは望んでいるのだろうか？そんなこと知ったことではない。だってAはいないのだから。

　ごちそうさまでした。再び手を合わせてぽつりと呟く。
　今日はどうも日常にAがちらつくなと思いカレンダーを見ると何重にも重ねられたばつ印。忘れるわけがないのに本能なのか、はたまたAの亡霊か。

　今日はAがいなくなった日だ。