#2 一等星のカノジョ【ars K.N】 (ページ16)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:89,336 hit

42.シトラスティー - N - ページ16

ある日の晩、初めて部屋のドアが叩かれた

「カズ、今いい？」

同居人のAだ

「あぁ、どうしたの」
「紅茶飲まない？美味しく淹れられたから」

トレイにティーポットとカップ二つ乗せてそっと部屋の中まで入ってくる

テーブルには本やらリモコンやら仕事の資料やらが散らかっていて、俺は慌てて場所を空けた

「散らかってるけど、ここ置いて」
「ありがとう」

カチャカチャと音を鳴らしながらカップをトレイから下ろし、そこへ静かに紅茶が注がれる

普段はコーヒーばかりで紅茶なんて滅多に飲まないけど、今この部屋を包む香りは個人的に好みだと思う

「いい匂いだね。柑橘系？」
「そう、シトラスティー。この間ウチ来た時コーヒー頼んだでしょ？だからちゃんと知ってほしくて、ウチの紅茶」
「それでわざわざ淹れてくれたんだ？」
「うん。…どうぞ、熱いから気を付けてね」

上品にカップを俺の方へ押したその手首にはこの間あげたブレスレットが揺れている

良かった…気に入ってくれてるみたいだ

「ん…美味しい。さすが私」
「あぁ、飲みやすくて美味しいよ」

甘いものが苦手な俺にはちょうど良い

それにこの爽やかな香りが俺の疲れた脳を癒してくれる気がする

「ずっとゲームしてたの？」
「ん？あぁ…自分でも引くほどやってたね」
「へぇーどんなゲーム？」

珍しくAが目を輝かせていたから俺は携帯型ゲームの電源を入れた

そして画面を覗こうとAが俺のそばに寄った時、一気に縮まるこの距離感に一瞬息が止まる

「カズ？」
「…ん。えっとね、横スクロールアクションなんだけど、なかなかエグい仕掛けがしてあって。それを解きながらゴールを目指すっていう」
「頭使いそうだね…」
「まぁ、Aにはできないゲームだな」
「ム！どういう意味よ、出来るもん！やらせて！」

俺から強引にゲーム機を奪ってじっと画面と睨み合うAに、こいつはゲーム初心者と確信

「A？始めないの？」
「ど、どこ押せば始まるの…」
「マジか。startって書いてあるだろ。押してみ」
「……あ、いけた」

そこから数分間、俺は隣でただ見守っていただけなんだけど

「あぁーもう、また死んじゃった！」
「何回同じとこで終わんの。詰むの早すぎ貸して」
「イヤ！」
「あぁ？」

コノヤロウ…頑なに手を離さないつもりだな。
なら、方法は一つ…