26.とてつもなく甘く、まるで… ページ26
「ま、待って…カズ？」
「待たない」
暗闇の中、耳から首にかけて手が滑っていく感触がした。
まもなく首の後ろを覆ったその手は、ぐっと私の身体を引き寄せる。
「っ…」
お互いの鼻先が触れた
カズの吐息がそばに感じる。
これは…ダメ。ダメだよ
付き合ってないのにキスなんてっ……
「…もう、誰だよこんな時間に」
私たちの距離を離したのは床で音を立てて震えている私のスマホだった。
「あ、私だ…」
スマホを手に取ったと同時に明るくなるリビング。
電気をつけたカズは少し不貞腐れながらケーキに手を付けた。
「す、すいません…」
とりあえずぺこっと謝って、"相葉さん"からの電話に出た。
「もしもし？」
『あ、遅くにごめん。今大丈夫かな』
「うん。どうしたの？」
『やー…さっきメールもしたんだけどやっぱ直接言いたくて』
「あ、え？もしかして…」
『誕生日おめでとう。ヒトミから聞いてさ…お祝い言いたくて』
「あぁ、そうだったんだ！ありがとう、わざわざ電話までもらっちゃって…」
そうか、
だからカズも私の誕生日だって知ってたんだ
「本当にありがとう、相葉さん」
『伝えられて良かったーー。あ、メールも送っちゃってるけど、スルーで！』
「ふふ…ちゃんと返信するね？」
「おやすみなさい」と電話を切って、メールを確認
返信画面に切り替えて返事を打とうとした時、カズの視線に気が付いた。
「な、何…？」
「嬉しそう」
「え？」
「ったく、部屋に置いとけよな…」
「……あ！」
そういえば、私さっき、
この人とキスしそうだった…よね？
良かったースマホ持ってきてて良かったー。
って、"部屋に置いとけよな"って、、、
「というかさっきの何なのよ！」
「くくく……冗談だよ冗談」
「冗談？」
「吹っ飛んだでしょ？悲しい気持ちとか諸々」
「あ……うん？まぁ、そう、かな…。いや、でもあんな冗談」
「まぁまぁもういいじゃない。早く食べなさいよ」
急かされてケーキに手を付ける。
カズはというと自分が食べ終わったからってそそくさと部屋に戻ろうとしていた。
「じゃ俺寝るわ。おやすみ。おめでとでした」
「あ、はい。ありがとでした…」
パタン、と扉が閉まって、孤独な空気。
一体何だったんだろう、今日…
色々ありすぎてよく分からないけど、
「…おいしい」
その日のケーキはとてつもなく甘く、
まるで恋の味がした。
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年10月26日 19時
