24.小さく空いた穴 ページ24
__"Aは俺のこと、本当に好き？"
まさか自分の誕生日にあんな質問されるなんて思ってもいなかった。
好きだよ。もちろん。
嫌いなら別れてる。
だからすぐに答えた。好きだよって
なのに
___"そうは思えない"
どうして？
どうして思えないの？
好きだって、言っているのに……
___"俺たち、もう別れよう"
…うん。わかった。
そうした方がいいねって。
別れる事を受け入れた。
無理はしていなかった。
そうか、これが。
これが質問に対する答えだ。
"本当に"と誓える程、好きじゃない
ヒトミとの会話を思い出した。
__"可哀想、Aの事大好きなのに"
__"そうでもないよ"
__"それはAが「そうでもない」からそう思うのよ"
その通りだった。
だからこそ私は、一度でいいから
泣いて喚いて、しがみつくくらい、
人を好きになってみたいと。
そう思っていたんだ。
「涙の一つも出ないなんて……」
部屋の鏡に映る自分の目に、涙はなかった。
だけど別に全然平気という訳でもない。
だって好きだったから。
度合の話は置いといて
好きだった事に間違いはない。
小さくはあるが、今、心に穴が開いているんだ。
「喉…乾いたな…」
しばらく水分を摂っていない事に身体が気付いて、重たい腰を上げ部屋を出る。
聞こえてきたのはシャワーの音。
カズはお風呂に入っているらしい。
冷蔵庫を開けて、
ペットボトルからコップに水を注ぐ。
冷たい水が喉を通ると
なんだか心もスッキリしたような気分になった。
明日は休みだし
もうこのままお風呂に入らず寝ちゃおう。
そう決めてペットボトルを戻そうと冷蔵庫を再び開けた時、
「あれ？」
普段の冷蔵庫ではあまり目にしない物が入っていた
「ショートケーキ…？」
コンビニやスーパーで売られているような、
２個入りのショートケーキ。
一体だれが？…って、
私は買ってないからカズしかいないんだけど。
それにしても珍しい。
甘いもの好きなのかな。
「食べていいよ？」
「あっ……カズ、」
いつの間にかキッチンまで来ていたカズはわしゃわしゃと髪の毛をタオルで拭いていた。
その雫が頬に飛んでくると
ふわっとシャンプーのいい匂い。
無駄に心臓がドキドキと音を立ててしまった。
「あっごめんねさっき…！なんか暗い感じで…」
「誕生日に振られたんじゃ仕方ないよ」
「え…」
「今日でしょ？だからそれ、食っていいよ」
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年10月26日 19時
