3.春の匂いと共に ページ3
「はぁ。引越しってこんなに大変なのね…」
だだっ広いリビングの真ん中に、ポツンと正座。
これからこの膨大な荷物を解いていかなきゃいけないのか…と溜息をつきながら、
ペットボトルのキャップを捻る。
乾いた喉にゴクゴクと水を流し込んだ後、ぐるりと家を見回した。
玄関を入って右側と左側に5.5帖くらいの部屋があって、その先を進むと10帖ほどのリビング
そしてカウンターキッチン
これはなかなか良い物件だと思う。
「さて…そろそろ始めるかな」
荷解き開始に一旦伸びをして、立ち上がろうとしたその時。
"ガチャ…"と扉の開く音と共に、ふわりと幼い春の匂いがリビングまで流れ込んだ。
「あー……っと…？」
玄関を入ったところで、
なかなか足を踏み入れない一人の男性
引っ越し業者の人？
何か忘れ物でもした？
いや、でもスーツケース持ってるし…一体誰？
「あの、どちら様でしょうか…」
恐る恐る近づくと
その人は私の顔をじろじろと見て
５秒後に「あ！」と大きな声を出した。
「なんだ、そういう事ね？」
「…？」
「ねぇアンタ、東城さん？」
壁にもたれかかって両腕を身体の前で組み、馴れ馴れしく私の苗字を口にした。
「そうですけど…あなたは？」
「まだピンと来てないの？分かるでしょもう」
「はぁ、」
そう言われてもな……。これまでの記憶を辿ってもこんな人は全く出てこない…
「二宮です」
「えっ？」
「二宮和也。あなたのルームメイト」
「…」
残念ながらまだピンと来ていない。
だってルームメイトは女性のはず。
男性ではない。
いや、でも見ようによっては女性のような綺麗な目をしている…？
…って、違う違う。
ヒトミは確かに「女の子」って言ってたし、きっと何かの間違いだ。
「あの、人違いじゃないでしょうか…ルームメイトは女性と聞いているので」
「東城さん」
「…」
「俺が聞いてるルームメイトの名前。アンタさっき"はい"って言ったじゃん。…まぁ、こっちは男って聞いてたから少し驚いてるけど」
「えーと、つまり？」
「俺たちヒトミに騙されたってわけ」
「ヒトミ？ヒトミと知り合いなんですか？」
「……お前バカなの？」
バカ…？
なのかもしれない
少し落ち着いて…
今目の前にいる人は男性でルームメイトでヒトミとも知り合い。
そして私たちは騙された。
ん？
騙され…た…？
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年10月26日 19時
