愛しのトロイメライ (ページ4)

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4話ページ4

ミンハオ君の一日は朝日記を読むことから始まるらしい。

眠ると記憶がリセットされてしまうから、毎日眠る前に日記を書いてその日の"記憶"を"記録"として残し次の日の自分へ繋いでいる。

絶望的な気分だといつかの彼は言ったそうだ。

彼の部屋には沢山のメモが貼られている。

目が覚めて真っ先に入ってくる情報は、自分が記憶障害であるという事。

毎朝日記を読んで自覚の無い記憶障害の事実を突きつけられる。

自分の体に異変は感じないし覚えてすらいないのに。

私には想像もできないけれど、きっと言葉では言い表せないほど辛く苦しいものだと思う。

私だったら良かったのに、私が変わってあげられたらいいのに、何度そう思ったか分からない。

ミンハオ君は音楽の才能に溢れ、プロのピアニストになる事を期待された将来有望な人だった。

ピアノやクラシックに詳しくない私が聴いても彼の実力は圧倒的なのだと分かってしまう程本当に素晴らしい才能を持っている人。

対して私は何の取り柄も特技も無いただの普通の高校生。

こうなってしまった今はただ日に日に後悔が募っていくばかりで、何も出来ない自分にもどかしさや怒りといった行き場の無い、どうしようもない感情が湧いてくる。

「...ごめんなさい」

何も出来なくて

その苦しみを代わる事ができなくて

こんな私のせいで

本当に、ごめんなさい

ミンハオ君に聞こえないほど小さな声で、私は彼に何度目なのか分からない謝罪を口にした。