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｢あ…… ｣
昨日出来なかった荷物整理を終わらせてしまおうと、始業時間よりだいぶ早く出社したにも関わらず、既に彼が居て言葉に詰まる。
｢随分早いんだな｣
｢おはようございます。私物を整理してしまおうと思いまして… ｣
｢そっか｣
鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染みでそうになるのを必死に堪える。
“ 泣くなA ”
そう自分に言い聞かせて、一瞬こちらへ寄越した視線を直ぐに戻し、何事も無かったかのようにキーボードを叩いている彼を見た。
｢出来るだけ早く一人立ち出来るように頑張りますので、ご指導の程よろしくお願いします｣
言い終わると同時に腰を直角に折り、視線の先には自分のパンプス。
カタッと音がしたとおもうと、視界に入り込んで来た男性物の革靴に一瞬怯む。
｢A……会いたかった｣
思考回路が停止した。
そう、彼に別れを告げられたあの時と同じ感覚。
息をすることさえままならない、あの感じ。
彼の手がひどく優しく私の肩に触れ、お辞儀をしていた身体を起こされる。
当然、目と目が合う。
泣くなと言い聞かせたはずなのに、目に涙が溜まり視界がぼやける。
堰を切ったように次々と溢れてくるそれを止めることが出来ない。
｢……ごめん｣
また、それ。
どうして、それしか言わないの？
私が聞きたい言葉はそれじゃない。
彼は何も言わない私に、スラックスのポケットから取り出したハンカチを握らせてその場から立ち去ってしまった。
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作者名：ココア豆乳 | 作成日時：2021年7月1日 17時
