プリムラ 3 (ページ26)

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無題 k.t ページ26

今野大輝

ちょっと仕事が長引いた上に事務所にも用事があって、帰る時間がかなり遅くなってしまった。

音楽でも聴いて帰ろうかなと、事務所に沢山あるソファに鞄を置いてイヤホンを取り出す。
ぱっと顔を上げると、矢花っぽい人が歩いてるのが見えた。

一緒に帰ろうと声をかけようとするけど、矢花にしては珍しいくらいに落ち込んでいる感じがする。矢花は落ち込んでる時はひとりになりたいタイプだから、悲しいけどそっとしておくことにした。

と思ったら、奥のテーブルで克樹が勉強しているのが見える。

「かつき」
「こんぴ？お疲れ」
「かつきもおつかれ」

勉強してるのを止めてしまうのは申し訳ないなと思ったけど、かつきは怒ることもせず普段通りの顔を見せてくれる。かつきが座ってるすぐ隣をとんとんして「ここ座りなよ」って言うから、「失礼します」とだけ言って俺も横に座る。

「なんの勉強してるの？」
「クイズの勉強、おれ全然出来ないからさ」
「でも俺は全く出来ないからかつき凄いよ」
「……こんぴは優しいね。」

そんな風に優しく笑うんだ。でも、悲しそう。目の奥が艶々してる。

「かつき」
「ん？」
「なんかあった？」
「なんにもないよ」

この前は大光のこと相談してくれたのに。なんかちょっと悲しくなる。もっと俺の事頼ってくれていいのに。

「かつき」
「ん？」
「ご飯食べに行こ」
「え！食べる！」
「うお、いきなり元気」
「勉強したらお腹空くもん！」
「だからかつきってれいあに怒られてもずっと食べるんだ」
「それとこれは別ですー」

食べ物の話をしたら分かりやすく元気になるかつき。単純だなぁ。でも俺も単純なんだよな、だってこの笑顔見たらこころがあったまるもん。

「ここのページ終わったら行こ！」なんて嬉しそうに言いながらクイズの本のページを捲るかつき。琳寧が好きそうな横顔してる。

「食べ物の為なら頑張れた！こんぴありがとう」
「いや……まあかつき頑張ってるから」

大光大変だな。この人誰にでも幼稚園児みたいな笑顔見せるから、無意識に他の人間を落としてる。絶対。

かつきの染まった髪の毛をサラサラと手櫛すると「こんぴ？」って上目遣い。

「なんでもない。行こっか。」

　