第八十九話 ページ9
「さて、今日はお待ちかねのテストの日です」
「え、待ってない…」
嫌そうな顔をするみゆさんを横目にテスト用紙を広げ、手にシャーペンを持たせる。
スマホのタイマーを30分にセットし、間髪入れずにスタートを切り出す。
慌てて名前を書き始めたことを確認し、私は教科書を眺めた。
「……先生」
「テスト中はお喋り禁止だろ?」
「あの、私…」
「お構い無しか」
喋りながらも手を止めていなかったため、大目に見ることにした。
「好きな人が、いるんですけど」
「そうなのか?詳しく聞こう」
「…テスト中なのに?」
「みゆさんが言うのか…?」
呆れた顔をしてしまったが、女子高生の恋バナは気になるな。
彼女は少し照れくさそうにして、喋り続けた。
「その人、1個上の先輩で…。入学式の時自分の教室がわからなくて迷っていた時に声をかけてくれて」
「優しい人だな」
「…でも、先輩にはいつも隣に幼なじみの女の子がいたんです」
「…ん?」
「頭が良くて、人気者で…高校生探偵なんてしていて」
「んん?」
どこかで聞いた人物だな。
こう、この世界に深く関係がある…主人公のような…。
「工藤新一って言うんですけど、知ってますか?」
「ああ…、うん…。有名だよな」
「やっぱり、有名ですよね。先輩を好きな子達は他にもたくさんいて…幼なじみの先輩だって、きっと…」
「そう、だよな」
工藤新一には、幼なじみの毛利蘭がいて
あの二人は後に恋人になる。
それは、私だけが知っていて
「強いな、みゆさんは」
目には涙を溜めて、鼻はほんのり赤くなっていた。
手を止めて、涙を拭って、声を出さずに泣いていた。
好きだという気持ちを堪えて、現実を受け止めようとしていた。
そんな彼女に、簡単に言葉をかけることができなくて。
彼女の頭を撫で、タイマーを止めることしかできなかった。
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作者名:yu-kun | 作成日時:2023年4月5日 4時