第九十二話 ページ12
真っ暗になったと思ったら、また場面が切り替わる。
今度はなんて言ってるのかわからない、先程の男性と知らない男性。
言い争っているようだった。
お互い白衣を着ていて、何かの資料を片手に話していた。
すると、写真立ての男性は資料を振り払いその場を去った。
『…クソッ』
声が聞こえた。聞き覚えのある声。
そういえば、あの女性の声にも聞き覚えがあった。どこか懐かしくて切なくなる。
あれは、お母さんとお父さんなんだろう。
無いはずの記憶が、私の中に流れ込んでくる。ああ、やめてくれ。これ以上見せないでくれ
なにもわかりたくない、知りたくない。私が何者なのか。
『A』
だめ、やめて、懐かしさを感じたくない
違う、彼らは、私の家族じゃない。
「私は、この世界の人間じゃっ」
誰にも届くことなく、この声は空虚に消える。
真実なんていらない。零と居れればそれでいい、それだけで。
『Aを被検体にするなんて…何考えてるの!?』
『止められなかったんだよ!!ちゃんと止めた、止めたんだよ何度も何度もっ』
『ふざけないでよ!!私の産んだ子供なのよ!?』
ああ、両親が言い争ってる。泣いてる赤子の私なんてお構い無しに。
『俺たちはノックだと疑われている、ノックじゃないと証明するには娘を被検体にしろと言われたんだ…』
『そんな…公安はそうしろと言ったの!?』
『……ああ』
『うそ、でしょ…』
泣き崩れるお母さんと、泣いている私に目を移すお父さん。冷めた目でまた私を見ると抱き上げた。
『……A』
なんだ、愛されていないと思ったけど
お父さんにもちゃんと愛されてたんだ。
愛さないように、していたんだ。
後ろに振り返ると、次の記憶になっていた。
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作者名:yu-kun | 作成日時:2023年4月5日 4時