第九十一話 ページ11
冷たい風が頬を撫で、私たちの髪を揺らす。数分の沈黙が続いた後、彼は口を開ける。
「あなた、何者なんですか?」
少し驚き目を見開くが、落ち着きを保ち顎を引く。次に紡がれる言葉を予想しつつその場を離れる理由を考える。
「坊やにここまで興味を抱かせる理由が知りたいんですよ」
「…意識がない状態の、怪我をした私を見つけたのがコナンくんだからだと思います。おまけに記憶喪失だなんて、人の興味を引くには十分な理由かと」
「確かに、そうですね」
「もういいですか?肌寒くてたまらない」
「失礼、結構ですよ」
まだ腑に落ちてはいないのだろうな、彼の目がそう伝える。でも、私が言えるのはそれだけだから。
「沖矢さん」
「…はい」
「小さな探偵くんによろしく伝えてください」
彼のメガネが、あの子のように反射したのを尻目にその場から去った。ああ、怖かった。
足に精一杯の力を込めないとまともに歩けないくらいには。
何度零の名前を心の中で呼んだことか。私は、ただの一般人なんだよ…。
零…。
「っA!!」
後ろから突然手を掴まれ、振り向く。
そこには息を切らした零の姿があった。
「帰りが遅いから探しましたよっ」
強く抱き締められ、体の緊張がとけたようで脱力したようにもたれかかる。
「透…」
「…なにが、あったんですか」
頭に当てられた零の手に、力が篭もった気がした。
「なにも、ない」
「嘘は通用しませんよ」
「…コナンくんが私について調べてるみたいだ。それで、彼の知り合いに声をかけられて」
「沖矢昴という男か」
「…うん」
私から体を離し、透は自分の拳を握るしめる。怒りで体を震わせていた。
「あ、れ」
目眩がすると同時にこめかみに頭痛が走る。この感じは
「A!?」
立っていられない程の頭痛でその場に蹲ると、またあの時のように
知らない映像が流れてきた。
『A、あなたは私達の大事な宝物よ』
眠っている、私と同じ名前の赤子の頬撫でる女性。赤子の側には写真立てに入った白衣を着た男性の写真があった。
『大丈夫よ、パパにもう少しで会えるわ』
赤子に唇を落とし、悲しげな顔で微笑んでいたと思えば
映像は切り替わり写真の男性が現れた。
『……』
何も話すことはなく、彼は赤子を冷めた目で見つめる。
口を開いたかと思えば、何かを言い淀んだ。
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作者名:yu-kun | 作成日時:2023年4月5日 4時