さよならをするために -O.S- (ページ2)

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いつから好きだったのか、はっきりとは覚えていない。

けれど、普段は丸い背中がやけに逞しく大きく見え、時が止まったように感じた瞬間が確かにあった。

惚れた弱みや、惚れたら負けという言葉があるが、私の場合はその逆だった。

大野先生は、私のしつこさに降参して渋々付き合ってくれている。

私があまりにも執念深く諦めないから、仕方がなく。ただそれだけ。

私に対する愛情は一切ない。

あるとするならば、それは先生が生徒に抱く愛情と少しの同情。

それでもよかった。

私だけのものになる瞬間が、一瞬でもあったから。

私は、椅子の上であぐらをかいている先生の背中を見つめる。

短くなった鉛筆を持つ彼の右手は、先ほどから休むことなく動き続けていた。

同じ空間に、ふたりきりでいるだけでよかった。

「ごめんね、お待たせ」

振り返った大野先生は優しく笑う。

この瞬間から、私だけのもの。