忘れさせてあげる(煉獄杏寿郎) (ページ5)

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「言いすぎてしまっただろうか…」

その夜。久々の休みで寝床に着いた煉獄は、Aを置いてきたことを少し引きずっていた。後々後悔し始めたが、もう遅い。また会えた時にでも謝ろう。と、重い瞼を閉じた。

「うちのことは忘れなさいな」
「師範っ？！」

どこかからそう聞こえた。後ろかと振り返ってもそこには誰もいない。蓮日山の桜だけが、辺りに拡がっていた。
ふと、考えた。これは、雫石梨瑠からのお告げではないかと。

「それでも、俺は師範を忘れられません…」
「新しい恋をするのも、修行やで」

にっこりと笑う梨瑠が脳裏に写った。

目が覚めた時にはもう任務に行く時間だった。朝方からの移動のため、まだ日は昇っていない。

「新しい…恋…」

と言われても、梨瑠への思いだけが煉獄の胸を埋めつくしていた。そこに、Aが入れるのか。そう聞かれると、首を横に振るだろう。

「俺は、師範だけです」

いつか、彼女から貰った組み紐をギュッと握りこんだ煉獄は、どこか決心をつけたように頷いた。