しょうたとりょうた ページ48
寂しいか、って聞かれてふるふると首を振る。母さんと過ごしたあの家にいられないのはつらいけど、それよりも……涼太に、会えなくなる方が辛い。
だから、俺の口からは「嫌だ」が飛び出した。寂しくない、と示した後に、拒絶の言葉を吐いたから滝沢先生は心底困ったような顔をした。
「やっぱり、お母さんがいた家がいい？」
「それも違うけど、嫌だよ……嫌だ」
多分、この先生は混乱している小学一年生が、とにかく嫌だって言いたいだけで言ってるって思われてるかもしれないけど。上手く伝わらなくてもいい。だって俺には、この気持ちをうまく言葉に出来るほどの言葉は持っていない。
「嫌だ。俺は、どこにもいかない」
涼太を置いて、どこにも行きたくない。
「翔太、あのな」
「嫌だ！！ いやだいやだ！！」
「翔太、落ち着け、」
滝沢先生の大きな手が、俺の肩を掴む。骨ばっかの肩だからかな、一瞬滝沢先生の顔が歪んだ。それから、一定のリズムで落ち着けるように叩いてくれる。
「大丈夫、大丈夫だから……お前の病気はな、あんまり興奮しすぎたりすると、逆に悪化してもっと眠くなっちゃうかもしれないんだ」
「……なんかそーいわれると、眠くなってくる」
「こらこら、寝るな寝るな」
一定のリズムが、途端ぺちぺちに変わって、かぶりをふって眠気を吹き飛ばした。
「翔太。それじゃあ、気持ちは家に置いて来てもいい。身体も中身もでっかくなってから、それでもあの家に帰りたいって思った時、また帰ってくればいい……でも、今のお前はどれも選べない」
「……っ、なんで」
「こどもだからだ。お前がまだ、ちっちゃいちっちゃい、こどもだからだよ、こうやって自分が助けられる理由も分からない、こどもだからだ」
「わかんない、……わかん、ないよ……っ」
「今の家にいたら、お前はまだでっかくなれない」
こんな、って痛そうな顔をして、滝沢先生は腕を撫でた。
「こんな骨ばっかの身体のまま、でっかくなれる訳ないんだ。だから俺は、お前を連れていく。お前が、大人になるのを助けるためだ。恨んでくれていい、だけどいつか、それがお前の為になるって、信じてる」
なんとなく、なんとなくだけど、こっちがいくら言ったところで、俺がこの人と一緒にいくのだろうと思った。この場所を、離れる未来が見えた。
「わかんねーけど、分かった……一緒にいく」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1674人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リムる(プロフ) - 千晴さん» ありがとうございます！何度も読めるなんて寧ろラッキーって感じです！いつも素敵なお話で何度も読み返してます。無理のない範囲で頑張って下さい！ (2020年8月9日 19時) (
レス) id: b5e023cd9b (このIDを非表示/違反報告)
千晴(プロフ) - リムるさん» リクエストありがとうございます！本編中にも似たようなお話が登場してしまうのですが、内容が多少被っていても大丈夫でしょうか、レパートリィ少ない作者ですみません！ (2020年8月5日 21時) (レス) id: 36259cee76 (このIDを非表示/違反報告)
千晴(プロフ) - 柿ちゃんさん» リクエストありがとうございます！無理しちゃう健気なskくんを一生懸命書かせていただきますので、少々お待ちください！ (2020年8月5日 21時) (レス) id: 36259cee76 (このIDを非表示/違反報告)
KUMA(プロフ) - 千晴さん» ありがとうございます！楽しみに待ってます！ (2020年8月5日 13時) (レス) id: 0b66efa19b (このIDを非表示/違反報告)
阿部月姫(ｶｸﾞﾔ)(プロフ) - 千晴さん» レスありがとうございます！ はい！大丈夫です！！ (2020年8月5日 13時) (レス) id: 2beffc3723 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千晴 | 作成日時：2020年7月24日 1時
