小さいお兄ちゃん ページ15
「本当ですか！？ あー良かった」
だってよ康二、と櫻井先生が声をかけると、補聴器がついた耳たぶをいじりながら、康二はどこか安堵したように頷いている。ほらまた、と俺は少しむっとする。
「康二、喋っていいよ」
不機嫌そうにそういうと、康二は少し驚いた顔をした。そして今度は困ったように、俺に向かって微笑む。その笑顔がどこか寂し気で、思わず少しだけ唇を尖らせた。
康二は「ちゅうとなんちょう」と言うらしい。漢字は難しすぎて分からない。だけど、俺よりも耳が聞こえないらしいという、漠然とした事実は知っている。
病院の先生にさよならをして、櫻井先生が運転していた車に乗り込む。三人だけの空間が出来て、そこでやっと、康二がしゃべりだした。
「うわぁよかったたぁ、おれ、もうこれいじょうみみわるぅなってたら、どないしょーっておもっとった！」
すらすらと、独特なイントネーションの言葉に、少し舌足らずな言葉。でも、まぎれもない康二の声に、俺の方が嬉しくなる。
「康二さ、俺らの前以外でも、もっとしゃべったほうがいいよ」
折角おしゃべりが上手くて、俺なんかよりも、よっぽど明るくて、気さくな性格なのに。
「うん……おれも、そうおもうんやけど……やっぱりしらないひとのまえだと、きんちょうすんねん……あかんわ」
なんでやろうな、れんのまえだと、なんもきんちょーせぇへんのに、なんて恥ずかしそうに、だけど屈託なく笑う。
「ちゅうとなんちょう」の康二はどうやらその耳が原因で、大分つらい思いをしてきたようだ。というか、俺が住んでいる場所「朝焼け荘」にはそんな人たちばっかりだ。みんな優しくて笑顔が絶えない場所だけど、誰かが別の場所に傷を作って、それを上手く隠しながら生きている。前に、俺たちの長男、深澤辰哉くんが言っていた。
『俺たちみんなさ、ここのお陰で立ち直れた部分もあるんだけど……一番は、隠すのうまくなっちゃったのよ』
やっかいよねぇっと笑った辰哉くんが、妙に大人びていたことが、すごく印象に残ってる。
「れん……？どないしたん？くるまによったん？」
ハッと気が付いたら、一つ上の「兄」が、心配げな目でみていた。駄目だ、一番俺は、こいつの悲しそうな顔に弱い。とっくの昔に自覚済みだった。
「ごめんごめん、酔ってないよ、大丈夫」
「ほんまに？むりせんとってな、れんはすなおやけど、かんじんなことはいわへんから」
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リムる(プロフ) - 千晴さん» ありがとうございます！何度も読めるなんて寧ろラッキーって感じです！いつも素敵なお話で何度も読み返してます。無理のない範囲で頑張って下さい！ (2020年8月9日 19時) (
レス) id: b5e023cd9b (このIDを非表示/違反報告)
千晴(プロフ) - リムるさん» リクエストありがとうございます！本編中にも似たようなお話が登場してしまうのですが、内容が多少被っていても大丈夫でしょうか、レパートリィ少ない作者ですみません！ (2020年8月5日 21時) (レス) id: 36259cee76 (このIDを非表示/違反報告)
千晴(プロフ) - 柿ちゃんさん» リクエストありがとうございます！無理しちゃう健気なskくんを一生懸命書かせていただきますので、少々お待ちください！ (2020年8月5日 21時) (レス) id: 36259cee76 (このIDを非表示/違反報告)
KUMA(プロフ) - 千晴さん» ありがとうございます！楽しみに待ってます！ (2020年8月5日 13時) (レス) id: 0b66efa19b (このIDを非表示/違反報告)
阿部月姫(ｶｸﾞﾔ)(プロフ) - 千晴さん» レスありがとうございます！ はい！大丈夫です！！ (2020年8月5日 13時) (レス) id: 2beffc3723 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：千晴 | 作成日時：2020年7月24日 1時
