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其の猫、別屋 ページ6

私の帰る場所は、全部で三つある。


キーケースを開けば三つの鍵がジャラリと音を立てた。
お客が持たせてくれたマスターキーだ。
其の中には太宰さんの分もある。


これで好きに、此処に帰って来て善い。


そう言って手渡してくれた。
自分に帰れる場所が出来たのは、とても嬉しい事であった。

私には勿体ない。彼等が与えたくれた、私の居場所。

スマフォを見れば、もう深夜の三時を表示していた。
頬を撫でた風は冷たくて少し痛い。冬が近いのだ。

温かい所で休みたい。

目的地に着くと鍵を開け、中に入った。
中は薄暗く、家主は寝てしまったのだと思われる。

否、扉の音や気配で起きたであろうか。
此処の家主は「そういうもの」には敏感で、奥の方で息を殺して待っているのかもしれない。

深夜にこの家に上り込むには、危機感を持たなければならない。

廊下を渡り、ドアノブに手を伸ばした。
すると予期した通り、ドアを開けると同時に「それ」は私に向かって放たれたのである。


「羅生門」


私の顔を通り抜けた「それ」は暗闇の中、私の頬を掠めた。

黒く獣の形に化けては、凡ゆる物を食らう。


芥川龍之介の異能、羅生門である。


一発目を避けてしまえば、相手をやり手だと考察し、二発目の捕獲に入る彼。


流石に、裏社会を歩む者の異能を避けるのは一回が限界。

私は羅生門に捕らえられてしまったのである。


「ちょっと暗いわね。灯りをつけてくれないかしら?」


「…貴様、自分が如何云う立場なのか判っているのか?」


「うーん、残念。折角私がサプライズで来てあげたのに」


芥川は黙る。
少しの躊躇いを見せるが、言われた通りに相手は灯りをつけた。


そして、やっと彼の姿が見えたのだ。


彼は案の定、困惑気味であった。

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作者名:眼鏡布団 | 作成日時:2017年11月19日 16時

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