短編まとめ【ナ】

乾杯/蘭 ページ12

女の子はドジなほうが可愛いよ、なんてよく聞くけれど、当の本人はそんなこと思わないというのは全世界に広めてほしい。

だってこのドジのせいで、はじめて出来た彼氏とのデートではズッコケるし、ヒールは側溝にはまって折れるし、泣いちゃってばっちりキメたメイクは落ちるしで、最悪だった。そんでもって、彼氏には一昨日フラレたし。
「最悪だよ、もう……」
「まぁ……ご愁傷さま」
向かい側の席に座って私の話を聞いているのは、2歳年上の蘭たんだ。家が隣の幼馴染で、よく相談に乗ってもらっている。
「蘭たん、私はもう誰ともお付き合いしません！だって、ドジなのが可愛いとか言っておいてドジなのが理由で振られたもん！！もうやだ！」
オレンジジュースを酒に見立てて飲み干す。私が成人してたらバーで酔っ払って忘れてやったのに。ここはファミレスだけど。
「……それはもったいないんじゃないの、まだお前18でしょ」
「……だって、こんなドジな私をお嫁にもらってくれる人なんて、もういないもん…」
ぽろぽろと涙が出てくる。元彼とのトーク画面を見ると、「別れよう」とだけ。そこからもう何もない。そんなもん見んなとスマホをぶん取られる。
「あぁもう、泣くなよ。ここファミレス〜。俺ら浮いてるから」
人差し指で優しく私の零れそうな涙を拭ってくれる彼。
「ありがとう…」
「…まぁ、きっとお前をもらってくれて、ついでにお前のドジも優しくカバーしてくれるようなヤツもいるって」
鼻をチーンとかんでいるとそっと励まされる。蘭たんのこういう不器用な優しさが、傷んでいた心にじんわり沁みてうれしい。

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