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「…A、A……」
『蓮、』
「俺は…」
＿＿蓮が私に抱いている感情は、錯覚が及ぼすものだ。
ライダーバトルの全てを、隠すことなく話せる相手。それでいて、自分の手で殺さなくても済む相手。更には、自分の傷を治してくれる相手。
優衣では人の死を包み隠さず伝えることは出来ない。真司など他のライダーでは、いずれ殺さなくてはいけない。
だが、私なら。
普通なら、恋心を抱くには十分な条件。しかし、それは錯覚だ。
ストックホルム症候群とか、そういうものの類い。
ライダーバトルで出来上がった錯覚、で収まるなら良い。
だが、蓮が私に恋愛感情を抱くなんてことはあってはならないのだ。それが、一時の錯覚だったとしても。
仮にそうなった場合、蓮の戦う意味が揺らいでしまうから。
「A、お前は、俺を、」
『…蓮』
「A、」
『違う。ソレは、錯覚だ』
「…」
しっかりと目を見据えて言えば、彼の瞳が揺れる。
彼の左手が、もう一度力を取り戻した時。
「蓮、ちょっといい？」
「……嗚呼」
軽いノック音の後に、優衣の声が聞こえた。
蓮は今度こそ私の手首を放して、返す。
ちらりと見れば、解放されたソコはすっかり赤くなっていた。
気付けば、なんだかんだ優しい蓮のことだ、きっと引き摺るだろう。だから、彼に見られないよう、さりげなく手首を隠した。
「！…お姉ちゃんも、いたんだね」
『…うん、どしたの、優衣』
「…あの怪我…またモンスターと？」
優衣は蓮の左手を見て、少し表情を和らげてから言った。傷が治っていることに安心したのだろう。
蓮は優衣の質問には答えずに、床を見詰め、温度のない声で言う。
「城戸を助けたかったら弁護士を変えた方がいいな」
「何、どういうこと？」
私と同じように床に膝を着く優衣。蓮はそちらに視線を向けて、もう一度逸らして。
たっぷりの沈黙の後、彼は言った。
「ライダーなんだよ、あの男も」
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年10月1日 14時
