鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ9)

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黒づくしの男は一直線にこちらへ歩いてきて、私の隣にドカりと座る。

「A。今日、モンスターが死んだ気配はあったか」
『…モンスターが？…いや、今日はなかったかな』
「…やっぱりな」

蓮は苦い顔をして、優衣の入れた紅茶を喉に流し込んだ。
モンスターを倒し損ねでもしたらしい。

怪我の有無を聞けば、特にはないとのことで一安心。

『私も聞いていい？今日、ライダーが増えた気がするんだけど、知ってる？』
「…気がする、って？」
『んー、なんかね、いつもと感覚が違ったんだよね。不完全というかなんというか…。どのモンスターと契約したか、とかが分からなくって』
「…なるほどな」
『え、知ってんの』

私も一口飲んで、蓮の方へ体を向ける。

「確かに新しいライダーは生まれた。…が、まだモンスターと契約していない」
『へぇ。そんなこと起こるんだね』
「ちなみに今、二階で眠ってるぞ」
『何、連れ込んだの？』
「嫌な言い方をするな。倒れたんだ」
『へぇ。じゃあここまで運んだってこと？意外』
「優衣が運べと言うからな」
「だって…倒れたままにはしておけないでしょ？」
『流石、私の妹は優しいなぁ』

優衣の頭を撫でようと身を乗り出して腕を伸ばせば、蓮にうざったいと手を叩き落とされた。
調子に乗って蓮もして欲しいの？なんて頭を撫でようとすれば、倍の力で叩かれる。普通に痛い。

「顔見てくか？」
『んー…気になるけど、他人様の寝顔を見る趣味はないからやめておくよ』

ちょうど飲み終わったしね、と付け加えて、椅子から立ち上がる。
紅茶のお代を渡したいところだが、今はお店じゃないからと優衣は受け取ってくれない。だから、代わりにお気に入りのお菓子を渡した。

『また来る。何かあったら連絡して』
「分かった」
「またね、お姉ちゃん」

花鶏を出る。
空はすっかり暗くなっていた。