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『アレ、』
私はいつものように、喫茶店花鶏にやってきた。しかしいつもとは違う光景に、間抜けな声を漏らす。
ン？仕事はどうしたのかって？
…勿論あの後も取材を続けたのだが、聞けば聞くほど嘘くさいし、真司一人でどうとでもなりそうだったので…マ、簡単に言ってしまえば、真司に押し付けた。
真司も嬉しそうだったのでいいだろう。そろそろ一人で取材できるようになってもらいたいし。
で、話を戻すが。
花鶏はどうやら営業しているらしかった。ここずっと閉まっていたというのに、今日は人の出入りが多い。
そこまで考えて思い出す。
そういえばこの前、叔母さんが帰ってくるって優衣が言ってたな。
「いらっしゃいませ…って、」
『どしたの優衣。元気ないね』
「お姉ちゃん…」
慣れた手つきで花鶏のドアを開けると、出迎えてくれた優衣。…出迎えたと言っても、その顔は愛想がいいとは言えない仏頂面。不本意だというのがひしひしと伝わってくる。
『まー、察するけど。ホレ、飴あげる』
「ありがとう」
手にいちごミルクの飴玉を頃がしてやれば、少し笑った優衣。
うん。折角可愛い顔してるんだから、やっぱり笑顔じゃないとね。
「Aちゃんじゃない！」
『お久しぶりです、叔母サン』
と、奥から飛んできた声。顔を上げれば、優衣の叔母サン…沙奈子サンが手を振っていた。会釈をしつつ近付くと、カウンター席に座るよう促されたので従う。
沙奈子サンは優衣の育ての親で、喫茶店花鶏のオーナー。少し変わっているがいい人。
私との血の繋がりはないけれど、本当の叔母のように接してくれる。
「見ないうちに随分美人になって…！優衣が13歳だから…Aちゃん、15？！」
『叔母サン、私21です。優衣も19』
「あら、そうだっけ？」
どうやら叔母サンはヒマラヤに行っていたらしい。そして今度はアマゾンに行きたいとか。
相も変わらずパワフルな人だ。
いつも通り美味しい紅茶を口に運んで、一息つく。
「すいませーん、注文いいですかー？」
「…はーい…」
『…なんか、随分不機嫌ですねぇ』
「いやぁ？Aちゃんが来る前はもっと酷かったのよ？」
『あらー…』
客の呼び出しに、不満げに注文を取りに行く優衣。
マァあの子、元々人見知りだもんなぁ。接客業には根本から向いていないのだろう。
私も昔はそうだった。職業柄もあって、今では影もないけれど。
見兼ねて、ぬるくなった最後の一口を流し込み、カップを置く。
『叔母サン、私手伝いますよ』
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年9月24日 18時
