鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ6)

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今は目の前の自分の記事に集中だ。
人気俳優の不倫とかいう、いかにもマスコミが狙うようなゴシップ。
これで生活がダメになるんだろうなぁと少し気の毒だけれど、需要があるのだから仕方がない。そもそも不倫するのが悪いんだし。

ちなみに、私は連続失踪事件への関与はあまりしない。たまに取材に行くけれど、令子サンが主体で追っているから私の出番は少ないのだ。
いや、それだけではない。
何よりの理由は、私は、その事件の真相を知っているから。

謎の連続失踪事件の原因は、少々…いや、だいぶオカルトめいたものである。
それは、鏡の中の世界…ミラーワールドに潜む怪物、ミラーモンスターが、人間を襲っている、というもの。事実なのだが、言ったところで信じては貰えないだろう。

何故これを私が知っているかと言えば、ミラーワールドが開き、ミラーモンスターが人間を襲いだした原因が私の兄にあるからである。もっとも、それでも知っていることと言えば極僅かなのだけれど。

兄の名前は高見士郎。旧名は神崎士郎で、両親の再婚によって出来た義理の兄だ。神崎Aとしての生活は地獄のようなものだったけれど、兄と…そして妹と過ごす時間は只管に幸せだった。
しかし12年前、私たちはバラバラに親戚の家に引き取られ、偶にしか会うことはなくなってしまった。そして今では、兄とは一切の連絡が取れていない。妹と定期的に会えているのは幸いだけれど…。

＿＿話が逸れたが、そういうワケで私は、この事件の真相を知っている。だが、あまりにも現実離れした話で、人に話すことも出来ない。
真相を知っている事件を、知らないと見せかけて調べる。そんな芸当は中々骨が折れるので、この事件を追うのは令子サンに任せているのだ。

『ッと…。編集長、とりあえず書ききってみました』
「おう、見せてみろ」

タンッとエンターキーを弾いて、編集長へ声をかける。後ろから覗き込んできた編集長の邪魔にならないよう体を捩り、空になった口に飴を突っ込む。今度はイチゴ味だった。

「いいじゃねーか」
『更新しちゃいます？』
「んー…折角昨日の記事で購読者が増えてるからな。もう少しして、伸びが落ち着いたら更新だ」
『了解です』

じゃあちょっと休憩してきていいですか？と問えば、編集長の答えは是。ありがとうございますとだけ告げて、OREジャーナルのビルを出た。