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『……あれ、バングさん？』
走り続けてようやく着いた場所、ヒーロー協会Z市支部。が、そこに居たのはS級3位、バングさんのみであった。
｢おお、おぬしは来たのか。｣
『うん。久しぶり。』
振り返って笑うバングさん。もうお分かりかもしれないが、彼とは少し交流がある。ヒーローになる前からちょくちょく遊んでいて、もう同じ鍋をつついた仲だ。
『なんて、流暢なこと言ってる場合じゃないよね。他の人は？』
｢ついさっきジェノス君が来おった。もう向かったがな。他は一人残らず避難じゃ。｣
『了解。』
｢ほんじゃあ行くとするかの。｣
着いてこい、と、いい終わる前に走り出したバングさん。一瞬で彼の背中ははるか彼方へ遠ざかる。私はそれを必死で追いかけた。
街の中心部には殆ど人が居ない。代わりに、他の街へ続く道には何人もの人間が渋滞を成していた。が、その殆どが生存を諦めている様子。死を確信して、かと言って渋滞から抜ける事もできず。皆一様に、死んだ魚の目で迫り来る隕石を眺めていた。小さな子供でもそうである。
私はそれを可哀想にと思っても立ち止まることも出来ず、物凄い速さで走るバングさんの背中を追い続けた。単に同じ距離の平坦な道を走るだけなら大した差はないだろう。しかし、彼は人の流れ、障害物や高低差…その全てをいとも簡単に受け流す。少し気を抜けば振り離されてしまう程だ。これは経験の差。悔しいと共に感心する。
『…っは、居た…。』
しばらく走っていくと、見えたジェノスの背中。隕石に向かって手を伸ばし、腕にエネルギーを貯めている。
そんな彼の姿は、いつもと違う。性能をあげて貰ったのだろうか。もしそうならば、ジェノスがこれから放とうとしている焼却砲は今までの何倍も強いものだろう。しかし反動が強いのも事実。所謂諸刃の剣だ。そのせいか、彼には焦りが見えた。真面目な彼のことだ。二次被害や失敗した時のことを考えているに違いない。
『ジェノス、落ち着いて。』
｢っ…A…バング…。｣
『心が乱れてるよ。』
声をかければ振り返るジェノス。思った通り彼の顔は強ばっていて、少しでも和らげようと、目を合わせて微笑んだ。
バングさんが進み出る。
｢おぬしは失敗を考えるにはまだ若すぎるのう。適当でええんじゃ、適当で。土壇場こそ、な。結果は変わらん。それがベストなんじゃ。｣
その言葉にジェノスは何かを思い当たる節があったようだ。
｢厶。｣
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年9月5日 0時
