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「A」
兄さんが私の名前を呼んだのは、閉ざし続けてきた心の奥底の扉が、開かれようとした瞬間。
「…好きだ。愛している」
顔を上げる。
『…それ、は』
視界に飛び込んできた兄の表情は、今まで一度も目にしたことがないものだった。
きっと、と思う。
きっと、今兄さんの瞳に写っているのは"妹"じゃない。そして、私の瞳に写っているのも、きっと、"兄"じゃなかった。
『兄妹としてじゃない、って。…思って、いいの？』
前髪の隙間から覗いた彼の瞳が、痛いくらいに私を射抜く。
「……嗚呼」
掠れたその声は小さかったけれど、波の音を押し退けて私の鼓膜を確かに揺らした。
足を踏み出す。
踏み出さずとも触れられる距離だったけれど、少しでも、近くにいたいと思ったから。
『兄妹だよ、私達』
「血は繋がっていないだろう」
『私のこと好きなの』
「嗚呼、ずっとな」
兄さんの腕が背中に回って、思い切り抱きしめられる。暑いなぁ、なんて思ったけれど、水を刺すような気がしたし、何より幸せだったから、口を挟むのはやめておいた。
代わりに、こちらも負けじと腕を伸ばす。
「もう一年もしないうちに卒業して、日本で暮らすことにした。仕事の目処もついているし、叔父にも話してある」
『え…』
兄のその、間違いなく喜ぶべきであろう報告を、私は彼の胸に顔を埋めたまま聞いた。
兄さんが日本で暮らす。日本で仕事を見つけていて、彼の叔父…彼を引き取った人物も納得しているというのなら、兄さんはきっと、もうそう簡単に海を挟んだ土地に行ったりなんてしない。
半年に一度、なんて数少ない時を待ち遠しく思う必要なんてなく、会いたい時に会いに行けるのだ。それは私だけでなく、優衣も求めていることに違いない。
「それで、お前が…お前たちが良いというのなら」
しかし吉報は、それだけでは終わらなかった。
「あの家で、もう一度暮らさないか」
彼は一度体を離して、私の肩を両手でしっかり掴み、視線を合わせてそう言ったのである。
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神崎(プロフ) - 面白くて一気読みしました！そしてめっちゃ感動しました。龍騎の作品を作ってくれてありがとうございました！ (2月11日 16時) (
レス) id: 225664e10d (このIDを非表示/違反報告)
麗大(プロフ) - 最高に面白かったです…！一気読みしてしまいました！！皆が幸せになれて良かった…！！ (2月7日 0時) (レス) @page50 id: c06fac28a8 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - こんばんは。完全完結おめでとうございます！もう全部素晴らしかったです…！設定からラストまで本当に好きです。なちなちこ。様、約一年、お疲れ様でした！！ (8月14日 21時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年6月18日 12時
