神崎士郎 END ページ45
『兄さん』
「お兄ちゃん！」
すっかり強くなった日差しの下、涼し気な波の音が辺りに飽和している。
私達が声を上げたその人物は緩慢な仕草で振り返って、慈愛に満ちた笑みをこちらへ寄越した。
「…A、優衣」
ここは大洗海岸。
大切な場所というには澱んでいて、忘れたい場所というにはあまりにも美しい。リセットされる前…ライダーバトルを思い出すには欠かせない、思い出の場所である。
『久しぶり』
「嗚呼…大きくなったな」
『て言っても、半年しか経ってないよ』
「十分長い」
兄と顔を合わせるのは実に半年ぶりのことであった。
最後にあったのは今年の一月だったか。年越しを共に過ごして、優衣の誕生日まで居たかったが、と悔しそうにアメリカへ帰った兄さんを良く覚えている。
私が全てを思い出して、両親の虐待が明らかになったあの日。兄さんはリセットされる前の世界と同じように、父方の、アメリカに住む親戚へと引き取られていった。彼は人生の半分以上を海を挟んだ土地で過ごし、現在は現地の大学院に通っているのである。
だから中々寂しいものだけれど…そう簡単に会うことは出来ないのだ。
「お姉ちゃん見て！」
『ン…？わ、綺麗な貝殻…』
「でしょ？お姉ちゃんにあげる！」
『ふふ、ありがとう、優衣』
優衣の指に摘まれた紫色の小さな貝殻が、そっと私の手のひらに載せられる。脳みその奥底に沈んでいた記憶が弾ける感覚がした。浮かんでくるのは、今より小さな傷だらけの自分の手と、それに乗せられた紫色の貝殻の光景だ。
優衣はあの時、こんな笑顔で貝殻を見つけたのだろうか、と。あの時連れて行って貰えていたなら、今より幼い彼女が、同じような笑顔を見せてくれていたのか、と。
過去への虚しさと現在への幸福がせめぎ合って、後者が打ち勝ったらしい脳みそは、私の頬を熱くして、微かに口角を持ち上げた。
本当に、ここは思い出の場所なのだ。
貝殻片手に砂浜を歩き回っていた優衣が、遊びに来ているらしい見知らぬ少年らと話し始める。
それを視界の端に映して、私はそっと踵を返した。
『兄さん』
砂浜を出て直ぐにあるのは駐車場。数メートルを歩けば、先程優衣を乗せて運転していた自らの車が見えてくる。
壊したりでもしたら嫌だから、貝殻をしまっておこうと思ったのだ。その一心で足を運んだその場所には、眩しげに海の方を見詰める兄が立っていた。
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神崎(プロフ) - 面白くて一気読みしました！そしてめっちゃ感動しました。龍騎の作品を作ってくれてありがとうございました！ (2月11日 16時) (
レス) id: 225664e10d (このIDを非表示/違反報告)
麗大(プロフ) - 最高に面白かったです…！一気読みしてしまいました！！皆が幸せになれて良かった…！！ (2月7日 0時) (レス) @page50 id: c06fac28a8 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - こんばんは。完全完結おめでとうございます！もう全部素晴らしかったです…！設定からラストまで本当に好きです。なちなちこ。様、約一年、お疲れ様でした！！ (8月14日 21時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年6月18日 12時
