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『海之』
「ッ、な…」
目を合わせながら、いつも通りの声音を心がけて、彼の名前を呼んでやる。
すればその顔が驚きを一面に表して、それから少し赤くなったものだから、私は自分でも自覚できるほど誇らしげに笑って見せた。
「…どうした、急に」
『あの時、真司とか蓮とか…名前で呼ばれてるのが羨ましい、みたいなこと言ってたの思い出して』
「…そうだったな。なんなら、今のも気分は良くないが」
『案外嫉妬深かったりするの』
「お前だからだ」
『ふふ、』
主導権を持っていることが分かるからか、今なら何を言われようと平常心でいられ気がする。
彼の口説き文句のような普通は照れるであろう言葉も…今の私にとっては心が安らかになる材料であったのだ。
『マ…でもやっぱり慣れないね。ずっと苗字で呼んでたから』
「照れるお前も良いが…それはそれで困るものだな」
『別に照れてはないけど。何で？』
「だって、いずれお前も手塚になるだろう」
『…、』
あ、まずい。
そう思ったのは、一瞬、何の言葉を言うことも出来ず黙り込んでしまったから。そしてそれと同時に、手塚の顔に余裕たっぷりの笑みが戻った。
「照れたな」
『照れてない』
「嘘つけ。マァ、俺が鶴見になったって構わないが…いずれにせよ、同じ名字なら名前で呼ばなきゃ分からないだろう」
彼は笑って、片手で私のソレを包み込んだまま、もう片方で再びコーヒーのカップを口に付ける。
思えば彼には見透かされてばかりだった。その占いの的中率は然ることながら、彼は人の感情の機微を見逃さない人だったから。実際私はその様に恐怖すら覚えていて、それはあの時自分にすら必死に隠していた何かが、いとも簡単に暴かれそうだったからである。
要するに、結局彼には敵わないのだろう。
マァでも、今回ばかりは甘んじて、この甘い敗北を受け入れてやる。
何週間後か何ヶ月後か、はたまた何年何十年後でもいい。いつか彼に、真っ赤な吠え面をかかせてやれればそれでいいのだ。
彼を打ち負かす機会はいくらでも巡ってくる。
だから覚悟しておいて、なんて。
彼の手から一度抜け出して、もう一度、指を絡めるように繋ぎ直した。
「ッ…A、」
『何？』
「…いや、」
くす、と笑えば、彼は恨めしげにこちらを見る。
案外、勝利の日は近いのかもしれない。
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神崎(プロフ) - 面白くて一気読みしました！そしてめっちゃ感動しました。龍騎の作品を作ってくれてありがとうございました！ (2月11日 16時) (
レス) id: 225664e10d (このIDを非表示/違反報告)
麗大(プロフ) - 最高に面白かったです…！一気読みしてしまいました！！皆が幸せになれて良かった…！！ (2月7日 0時) (レス) @page50 id: c06fac28a8 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - こんばんは。完全完結おめでとうございます！もう全部素晴らしかったです…！設定からラストまで本当に好きです。なちなちこ。様、約一年、お疲れ様でした！！ (8月14日 21時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年6月18日 12時
