508 ページ24
『優衣！』
妹の名前を叫びながら、私が走っている場所はミラーワールドの森の中。
真司と蓮、そして私は、今日も変わらず優衣を探していた。しかし昨日とは違い、私には確実な手がかりがある。それは索敵に放ったモンスターの内の一体、バズスティンガー･フロストによる報告だ。
バズスティンガー･フロストは、優衣を見つけたと伝えてくれたのである。勿論モンスター達は言葉を話せないのだが、だんだんとその感情を読み取れるようになってきているのだ。コレも終着点の力なのか、ペットの感情がだんだん分かるようになるのと同じ現象なのか、本当のところは分からない。
『優衣！』
「…」
そうして見つけた川辺の木の根元に、優衣は座り込んでいた。
安堵が身体を遅い崩れ落ちそうになるのを耐えて、必死に彼女の元へ駆け寄る。
『優衣、怪我は？』
「…」
『具合は？気持ち悪いとか頭痛いとか…変なとこは無い？』
並べ立てた問い掛け。優衣は視線をこちらに向けたが、それ以外の反応は何も示さなかった。
その様に、真司の言った"おかしくなった"の意味を理解する。彼女は不気味な程に、口を開こうとしないのだ。
『優衣』
「…」
『ねぇ、優衣。…帰ろう？』
肩に触れて、目を合わせて。子供に言い聞かせるように言っても、優衣が行動を起こすことは無かった。
彼女を見つけた時とは一転、鳩尾から悪寒が迫り上がる。脳内が不安一色に塗りつぶされそうになった時。
「A、優衣」
背後から聞こえたその声に、暗闇に落ちかけた私の意識は引き上げられた。
「ここはお前達の居るべき場所ではない」
『…兄さん、』
「…」
「今ならまだ間に合う」
その口調は正しく忠告だった。
今ならまだ間に合う。なら、手遅れになった時、一体何が起こるというのだろう。
聞きたかったけれど、その疑問を口にする勇気は私には無い。何か、禁忌に触れるように思えたからだ。
張り詰めた空気に、一つ息を飲んだ時。背後から小さな物音がした。
布が擦れる音と木の葉と木の葉が触れ合う音。優衣が、立ち上がった音である。
「私は、ここに居る」
先程まで口を開かなかった彼女が、確固たる意思でそう告げた。
しかし、"おかしい"という直感は未だ拭えない。彼女は未だ、人が変わったように見えてならなかったのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 13人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りんごキャラメル@さくらぁ - 《追記》しかしそんな馬鹿なトコがかわいくて好きです。 (5月19日 22時) (
レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
りんごキャラメル@さくらぁ - 多数決のシーン、好きです…(笑) 後から浅倉さんがゆっくり手をあげるトコとか。夢主ちゃんもあげましたか…やっぱり、真司くんは馬鹿なんですよ(←酷) (5月19日 22時) (レス) id: 0caca33ed5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年5月16日 18時
