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『優衣、』
「お、ねえ、ちゃん…」
先程までの朗らかな空気は一瞬にして拭い去られ、反射的に優衣を自らの背後に隠す。
どのモンスターだろうか、どこにいるのだろうか、誰を狙っているのだろうか。そう思って、その音を暴くため意識を集中させた。
しかしいくら意識を集中しても、モンスターの存在が掴めない。
『え…』
そして、目の前のビルのガラスに、浮かび上がった音の正体。
ソレは私の知識に無い…つまり、ライダーバトルに介入するハズが無いモノだった。見た目から考えるに、恐らくモンスターよりライダーに近しい存在だ。真っ黒な装甲を纏ったシルエットは、正しく人間のソレである。しかし、私はその名前を知らない。
「アレ…あの時の、」
『あの時って…真逆、』
怯えたように言う優衣を見て、私の脳は一つの仮定を導き出した。
目の前のライダーもどきは、優衣を襲ったライダーなのではないか。真司から得た"黒くて他のライダーとは違う"という情報。僅かだが、ソレは見事に一致しているのだ。
「優衣ちゃん！Aちゃん！」
なればコイツは、優衣を狙っている。
目の前の謎のライダーに、私が確かな敵意を向けた時。私達の右側から、雷鳴のように飛んできた声があった。
『真司…何でッ、』
「トニカク今は逃げて！」
『…わ、分かった、優衣、行こう！』
「う、ウン、」
真司の言うことは最もだ。
優衣が狙われているかもしれない。そして、真司がその相手を足止めしてくれると言う。ならば、今すぐ優衣を連れてここから離れるべきだ。
花束を抱え直し、もう目と鼻の先の病院へ、優衣の腕を引いて走る。
謎のライダーの存在に胸を揺さぶられながら、私達は目的地へ足を踏み入れた。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2023年4月26日 18時
